クロノ・クロス ストーリー考察リマスター

なぜ「プロジェクト・セルジュ」ではなく「プロジェクト・キッド」なのか。セルジュが記憶を失う理由ガッシュの真意、ラヴォスの思惑など、その辺りも含めてクロノ・クロスのストーリーを考察、解説していく。全体的に既プレイ者向けなので、あらすじを知らない場合は動画とかで予習した方が良いかもしれない。

DS版クロノ・トリガー発売以前(2005年くらい?)に書いたもの。当時はゲーム内テキストとアルティマニアだけが頼りだったが、リマスター発売時にシナリオライターが情報を供給してくれたので加筆修正したものを公開。

始めに

クロノ・クロスはあえて物語の説明をせず、シナリオライターも解釈をプレイヤーに委ねている*1。考察すれば公式設定と推論が入り乱れるため、公式設定やそれによる根拠ある推論は断定調、それ以外の推論は推定調にしている。またカギ括弧「」は引用符として公式設定や原文を記している山括弧〈〉は非公式の語句

考察の焦点

クロノ・クロスの難解さは「プロジェクト・キッド」に関する説明がほとんど無いこと。本編はこの計画の最終段階であり、これを考察することがストーリーを考察することになるので本稿ではこれに焦点を当てる。

プロジェクト・キッド

概要

ガッシュが、おそらくは時喰いから未来を救うために発案した計画。流れは下記の通り。

  1. タイムクラッシュが発生する。
  2. サラがセルジュの次元に干渉し、結果的にセルジュが調停者*2となる。
  3. HOMEが誕生する。
  4. セルジュが次元を越える。
  5. セルジュが凍てついた炎*3クロノ・クロス*4を入手する。

このうちガッシュの意図が介在しているのはHOMEが誕生するセルジュが次元を越えるの2点のみで多くは偶然に頼っているが、ネオシルバードを所有しているガッシュにとってANOTHERの事象は確定要素だったのだろう。

ネオシルバード
公式設定として名前が挙がるだけで詳細不明。前作のシルバードは星*5の意思により発生したタイムゲートからタイムゲートへ移動する程度の機能しかなかったが、今作では逆に星の意思により人類が排除されようとしているので、星の意思やタイムゲートに関係なく自由に時空移動できると思われる。A.D.2300にいたガッシュがA.D.2400以降の出来事を把握しつつA.D.1020にいるのはそのためだろう。そもそも前作のシルバードはガッシュが志し半ばで死亡したこともあり未完成であった。

一方でHOMEにおけるガッシュについて

  • ANOTHERでは星の塔にすら登場するガッシュがHOMEには登場しない。
  • HOMEのクロノポリスは最終シナリオでも死海
  • 時喰いはHOMEからしかアクセスできないため、あくまでもHOMEでの出来事。*6
  • 時喰い解放そのものは計画外だと解釈できるルッカ私見*7
  • HOMEの誕生、セルジュが次元を越える、どちらも実行者はANOTHERキッド。*8

これらのことから彼は少なくともHOMEに直接介入する技術を持たないと考えられる。おそらく並行移動もできず、HOMEについては断片的な情報しか持っていなかっただろう。

キッドが起用された理由

並行世界へ干渉できないであろうガッシュに対してキッドは「サラのペンダント*9」と「星色のお守り袋*10」を併用することで別次元に干渉できるらしく、シナリオライターによればオパーサの浜でセルジュを呼ぶ声はキッドのもの

おそらく本編後のキッドの行動は下記の通り。

  1. ネオシルバードでA.D.1010年に移動してセルジュを救出。
  2. セルジュごと強制的にHOMEへ並行移動。
  3. HOMEからANOTHERへ並行移動。
  4. 再びネオシルバードでA.D.1020へ。ANOTHERからHOMEセルジュに呼びかけて並行移動のキッカケを作る。

ガッシュにとって最大の難関はおそらく並行移動と並行世界への干渉であり、もしガッシュ自身がセルジュを救出すればガッシュはHOMEからANOTHERに戻ることができず、預言者としての役目を全うできないばかりかフェイトや龍神の動向を監視することすらできなくなる。

調停者がいなければ時喰いを解放できないのに調停者がいる時間軸にガッシュは干渉できない。この点を解消できるのはキッドしかおらず、彼女をクロノ・トリガー*11とした「プロジェクト・キッド」を発案したのだろう。

時喰いの解放条件を説明しないガッシュについて

パラレルワールドの概念を踏まえると、凍てついた炎とクロノ・クロスを持ったセルジュがオパーサの浜に立った時点でHOMEが時喰いが解放されなかった時間軸解放された時間軸に分岐することは確定する。つまりガッシュからすればセルジュを見届けた段階で「プロジェクト・キッド」は成功しており、またそのときにどれだけ言葉を尽くしても分岐を阻止することはできず解放されなかった時間軸は存在し続けるため、具体的な説明をせず解放をセルジュに一任していたり、解放そのものが計画外のように見えるのはそのためだろう。

タイムクラッシュ

クロノ達に倒される可能性を見たB.C.10000のラヴォスは生き残るためA.D.2400のクロノポリス*12で管理されていた凍てついた炎に働きかける。その結果、そのときクロノポリスで行われていた反時間転移実験*13は失敗し、タイムクラッシュが発生。クロノポリスはその一帯の空間ごと過去に引きずり込まれる。

これを受けて前作と同じく星の防衛機能が働き、クロノポリスに対抗するためA.D.2400の龍人*14をディノポリス*15とその一帯の空間ごと召喚。

こうして未来の空間そのものが過去にタイムスリップし、神の庭*16の内はA.D.2400、外はB.C.10000という異なる時空が物理的に隣接する状況が生まれ、エルニド海で起こった出来事はその未来である神の庭に影響を与えることになる。

神の庭とエルニド海

クロノポリスのマザーコンピュータであるフェイトはディノポリスとの戦争に勝利した後、人類再建の足がかりとしてエルニド海の多島海化計画を実行する。何も無かったエルニド海に人工島を造り、龍神*17は6体に分裂、封印してエレメント*18や自然管理に利用した。

環境が整ったところでクロノポリス内の人間から記憶を消し、彼等をエルニド海の原住民として神の庭の外、つまりB.C.10000の時空に住まわせる。当然彼等の行動によっては未来であるクロノポリスが滅びて神の庭が死海となる可能性もあるため、フェイトは運命の書によって人類をコントロールし、未来の存続に努める。

運命の書
今作のセーブポイント。エルニドにはこれに向かって一日の報告をする風習がある。その実体はエルニド住民の情報収集および洗脳装置であり、これによりエルニドに関してクロノポリスにはB.C.10000からA.D.2400までのデータベースが存在する。フェイトがあらゆる事態を予見し、セルジュに対してその内容を話した上で「これは歴史だ」と発言したのはこのため。おそらくガッシュもクロノポリスに出向いてある程度は情報収集していたはず。

こうしたフェイトの管理によって人類は再建されるが、フェイトは凍てついた炎を見つめるうちにヒトと機械が同化した新たな生命体となることを夢見るようになり、そのために凍てついた炎を利用しようと暴走し始める。

ラヴォスの子

ラヴォスは宇宙から隕石の如く飛来する生命体であり、星の中核に巣くいながら全ての遺伝子を取り込んで進化し、最終的には子を成すために地表に出現して世界を崩壊させる、いわば寄生虫のような存在とされていた。世界崩壊を阻止すべくクロノ達がラヴォスを打ち倒す、というのが前作のあらましだったが、今作では人類がラヴォスの子、ラヴォスは人類の母とされている。これはサルが凍てついた炎に触れたことでヒトへ進化した歴史があるという設定のため。

凍てついた炎がいつから存在するのか不明だが少なくとも前作のB.C.12000で既に人類は栄華を極め、国が滅び文明と魔法は途絶えたが系譜(イベントフラグ)はA.D.600まで繋がっているため絶滅はしていない。そしてタイムクラッシュはB.C.10000の出来事。要はB.C.12000で一旦絶滅した人類がB.C.10000のタイムクラッシュでラヴォスの子として誕生したみたいな話ではないので、時間軸に関係なく前作の時点で人類はラヴォスの子と言える。

ラヴォスの意図

ラヴォスがクロノ達に倒されるのは公式設定だとA.D.1999だが、それをB.C.10000の時点で予見している。星に住む生命の遺伝子を取り込んでいるラヴォスはおそらくガッシュ*19ルッカと同等以上の知能を持ち、クロノ達に倒されることを予見しているということは当然タイムゲート、すなわち星の意思の存在も把握していると考えられる。

おそらくラヴォスが何とかしたかったのは星の意思であり、ガッシュが凍てついた炎を発見したA.D.2300ではなくA.D.2400に干渉していることから凍てついた炎そのものではなくクロノポリスを召喚したかったのだろう。

実際タイムクラッシュに反応してディノポリスが召喚され、結果的にはクロノポリスが勝利し、星のエネルギーを管理、封印、利用している上に今度は人類が星の意思によって排除されようとしている。どこまでがラヴォスの思惑なのか不明だが、少なくとも今作の人類の有り様はラヴォスにとって非常に都合の良いものと言えるだろう。

なお前作に登場したドリストーン*20も「地上に落下したラヴォスの一部*21」とされている*22が凍てついた炎、特にガッシュの発見したそれは作中でも公式設定でも別格扱いされており、実際ドリストーンは原始時代で単なる宝石扱いされるなどサルを変異させるほどの力はなかった。ラヴォスにとっても今作の凍てついた炎しか干渉できる余地は無く、その中でクロノポリスが最善の選択肢だったのだろう。

サラの次元干渉

サラは前作においてラヴォスのエネルギーを限界以上に抽出し、暴走させてしまう。弟やガッシュら三賢者が次元の渦に飲み込まれ、部外者であるクロノが死に、王国が破壊し尽くされ滅亡する様を目の当たりにして、「憎しみと悲しみ、痛み、無に帰りたいという強い衝動」を抱き、自身も次元の渦に飲み込まれる。

そうして次元を彷徨っていた彼女は、A.D.1006、ヒョウ鬼*23に襲われて瀕死の重傷を負ったセルジュの泣き声に惹かれ、彼との接触を図る。しかし自己消滅を願っていた彼女は自身が干渉することを望まなかったらしく、分身としてキッドを生み、ペンダントを持たせて同じ次元に放つ。この次元干渉によって強いエネルギーが発生し、龍神の「時間的封印」が解け*24ツクヨミが誕生する

この時の心境がどのようなものであったか定かではないが、セルジュを助ける手段とは考えにくい。むしろマブーレ*25への航行を妨害しているし、ルッカ「サラさんも、そうなること*26を望んでいたんだと思うわ」という発言からしても、セルジュそのものに対する関心があったというよりは、偶然聞いたセルジュの泣き声によってその次元に関心を抱き、生きる意欲が芽生え、それをキッドに託したように思える。そして「プロジェクト・キッド」の中で、キッドとセルジュは強いつながりを持ち、結果として互いに関心を抱くことになる。

という文章を書いてから20年近く経った後にリマスター版が発売され、当時のサラの心境についてシナリオライターが言及している。曰く「本能的に、赤ん坊の笑顔に接すると誰もが笑顔になるし、逆に赤ん坊が泣いてるとなんとかしたいと思うものですよね。そこに理由なんていらないですよね」「セルジュの声を聞かなければ、彼女は消えていたかもしれないし、それがセルジュでなく別の誰かだったら、また別の物語になっていたでしょう

サラはシリーズ中でも最強クラスの魔力を有し、人類が栄華を極めた魔法王国ジールの王女という立場でありながら、強権を振りかざす女王ジールを娘として憂い、賎民とされた地の民*27の居住区へ自ら赴き交流を持つなど慈愛溢れる人物として描かれていた。それだけにクロノが死亡した際には「クロノ…」と絶望に打ちひしがれている。DS版クロノ・トリガーにおける夢喰いの幕間でもその人物像が見てとれ、絶望の中にあってもサラはあくまでもサラだったということだろう。

プロメテウス再起動と死海化するクロノポリス

凍てついた炎を利用しようと考えていたフェイトにとってサラの次元干渉は痛恨事だった。それによって大嵐が発生したためにクロノポリスが一時システムダウンし、その間にセルジュが凍てついた炎と接触して調停者となった上、システムダウンから再起動した際にプロメテウス*28も再起動、凍てついた炎へのアクセス権をセルジュのDNAを持つ肉体に限定されてしまう

その為フェイトはセルジュの父ワヅキ*29の精神に侵入し、その肉体をアクセス権奪取に利用する*30。しかしセルジュの存在自体によって神の庭が死海化したため、サラの次元干渉から4年後、やむなくフェイトはヤマネコを介してセルジュを溺死させる。*31

その更に5年後、今度はルッカ*32にプロメテウスを解除させようとするが失敗(ルッカはその際に死亡したものと思われる) 凍てついた炎を利用するには最早セルジュの肉体を利用するしか道は残っておらず、結果としてセルジュが生きているHOMEの存在はフェイトにとって好都合だった。

なおHOMEイシトによればパレポリはヤマネコから凍てついた炎の情報を得ており、少なくとも本編の3年前まではHOMEヤマネコも存在し、かつANOTHER同様にパレポリを利用して龍の涙の奪取と古龍の砦の起動を画策していた模様。しかし後述するように大陸に運命の書がおそらく存在しない上にエルニド住民を支配できていないことから不確定要素が多すぎたらしく失敗に終わっている。

運命の書とフェイトの不完全さ

フェイトの中にはA.D.2400までの歴史がデータとして保管されている。作中の発言からセルジュが次元を超え、ヤマネコがその肉体を奪い、ダークセルジュとして破壊活動を行うことまでは予知しており、おそらくセルジュ達が神の庭へ侵入する直前までは概ね予定通りだったと思われる(神の庭の時間はフェイトにとって今現在のことであり、予知出来ない)

しかし蛇骨館にいるガッシュ*33を放置していたことからガッシュは運命の書の正体におそらく気付いており、これに触れなかったため、ガッシュの所在についてフェイトは一切知らなかったと考えられる。ルッカがプロメテウス解除を最期まで拒むことを予想できなかったのは、それがクロノポリス内における出来事、つまりフェイトから見て今現在のことだったのだから当然と言える。

プロメテウス起動からルッカハウス襲撃までに9年ものタイムラグがあるのは「大陸」に運命の書が存在しないか、ルッカガッシュ同様に運命の書から逃れていたかのどちらかだろう。クロノポリスにはエルニドに関する情報しかなく、エルニド住民の洗脳も主に大陸と関わらないようにする方針だったことから前者だと思われる。ルッカハウス襲撃はヤマネコ=ワヅキが行ったものなので運命の書を介してワヅキの歴史として予知していてもおかしくないものの、シナリオライターが「ワヅキ的な部分はもうほとんど残っていないようです」と言っているようにヤマネコ=フェイトと考えて差し支えなく、ルッカハウスが襲撃された「歴史」はフェイトから観測できなかったため、ルッカを探すのに9年もの歳月が経った、ということなのだろう。

「プロジェクト・キッド」によって誕生したHOMEでは神の庭が死海化しているが、そこでもフェイトはまだ機能しており、エルニドには「直接介入出来ない*34」ながらもワヅキの友人であるミゲル*35死海に留めたり、HOMEにある運命の書から得られるデータをANOTHERで受信することには成功している。しかしヤマネコ編においてセルジュが肉体を取り戻すことを歴史として予知していながら時間的妨害に失敗している*36ことから受信したデータは完全ではなかったのだろう。

エンディングについて

時喰いはクロノ・トリガーの時間軸におけるA.D.1999*37に誕生し、今作においてA.D.2300の人間であるガッシュは、時喰いについて「遠い未来で世界の時をとめてしまう」と言及している*38。しかしその時喰いがB.C.12000のサラやB.C.10000の龍神を飲み込んだりA.D.1006の神の庭を死海化させたりA.D.1020からアクセスできることから考えると、時喰いは少なくともB.C.12000からA.D.2300より先まで干渉することが出来ると考えられる。特にほとんどが時喰いが誕生したA.D.1999より過去の出来事であることは興味深い。

これが時喰いの能力なのか、「時の闇の彼方*39に巣食う存在の特権なのかは分からないが、後者の方がエンディングの描写に説明がついて都合が良いため今後この方向で考察を進めていく。

上述の通りだとすれば「時の闇の彼方」は少なくともB.C.12000から「遠い未来」まで干渉できる空間と言える。別の言い方をすれば、過去、現在、未来という時間の連続性を持たない空間であり、ここに巣食う時喰いは一つの時間軸上に対して単一の存在と考えられる。つまりラヴォスと違ってB.C.12000の時喰い、B.C.10000の時喰い、遠い未来の時喰いというものは存在せず「時の闇の彼方」に巣食う一体だけであり、時喰いが解放されて「時の闇の彼方」から消滅すれば、それらの時代へ干渉した歴史も消滅することになる。

本編後のHOME(新たなる時間軸)

本編中のHOMEは神の庭が死海化しているが、本編後は時喰いを解放したことで神の庭に戻り、クロノポリス及びフェイトも復活しているだろう。エンディングでオパーサの浜、つまりエルニド諸島が存在していることから考えてA.D.2400にタイムクラッシュも発生している*40。しかし時喰いが存在しないので龍神がそれに取り込まれるということはない。

また、もしサラが「時の闇の彼方」から次元干渉をしたのだとすれば、時喰い同様に次元干渉の歴史は時間軸上から消える。そこ以外から干渉した可能性もあるが、やはりこう解釈した方が何かと都合が良いので今後はこれも前提にする。

サラの次元干渉が無いということはキッドやツクヨミはおらず、龍神の時間的封印が解けることはなく、クロノポリスがシステムダウンしてセルジュが調停者になったりプロメテウスが再起動することもない*41。キッドや時喰いが存在しないのだから「プロジェクト・キッド」が発案されることもなく、 ANOTHERからHOMEを分岐させることも、ANOTHERからHOMEのセルジュを召喚することもない。

つまり本編後のHOMEでは本編が存在し得ないので、そこは本編が存在しているHOMEの延長上にあるものではなく、ANOTHERのA.D.2300*42から分岐した新しい時間軸(以後NEWと呼称)であると考えられる。

記憶を失うセルジュ

時喰い解放後のエンディングで最初の並行移動直前まで時間が巻き戻っているのは、本編が存在しない時間軸へ移行したためだろう。本来は本編で時間が経過した分の時間を進めて移行するのだろうが、その場合はNEWにおける経過時間分の出来事が自動的に補完されているはずで、エンディングの描写はその補完部分となる

他のキャラクター達が本編の記憶を保持したまま元の次元へ帰っている*43のに対してセルジュだけが記憶を失っているのは、本編が消失した時間軸だからだと考えられる。つまり本編のセルジュはあくまでもHOMEの存在だが、本編後(エンディング)のセルジュはNEWの存在であり、それまでプレイヤーが操作していたセルジュではない

「プロジェクト・キッド」は時喰いが解放されたNEWという時間軸を創り出すための計画、ということになる。NEWにおいても龍人を滅ぼし、龍神を使役していることに変わりはなく「星の生命の負の感情」はHOME、ANOTHER 同様に発生はしているはず。だが時喰いが存在しないため星の未来は救われたと言える。

ガッシュマザーブレイン*44にプロメテウスを組み込んだのは「プロジェクト・キッド」とは関係なくセキュリティ上の問題であり、「再起動」という表現*45からしてクロノポリス設立時(フェイト起動時)から既に機能していたようでなのでNEWにおいて運命の書(フェイトの支配)は有効だろうが、フェイトは依然として凍てついた炎を十分に利用出来ない状態と思われる。*46

サラの次元干渉が消滅していると考えると都合が良いというのはエンディング後にセルジュが記憶を失っている理由に説明がつくからというのもあるが、セルジュがNEWにおいても調停者だった場合、結局はフェイトに肉体を奪われフェイトは野望を実現し、それはそれで人類の存続出来ない機械の世界になってしまう、ということでもある。

ところでキッドが存在しない代わりに「時の闇の彼方」から解放されたサラがNEWに降り立っている可能性はあり、エンディングに登場するドレス姿のやや幼いキッドは、そのサラではないかと思う。またエンディングムービーで我々プレイヤーの現実世界に降り立っているかのような描写についても、シナリオライターによれば「そういう時間軸もあるかもしれないという演出」とのこと。

本編後のANOTHER

時喰い解放後、ANOTHERキッドはおそらくネオ・シルバードで10年前のANOTHERへ行き、セルジュを助けて HOMEを創る。その後はサラのペンダントと星色のお守り袋の併用によりA.D.1020のANOTHERに戻り、HOMEにいるセルジュを ANOTHERに召喚する。HOMEでは死海の存在が示唆する通り時喰い解放に失敗しており、「プロジェクト・キッド」つまり本編が存在しているのだろう。バッド・エンディングにおいて時喰い戦後の描写が一切無くエンドロールが始まるのは、HOMEがA.D.1020の段階で滅亡したということなのかもしれない。

クロノ・クロスのオープニングムービーはモノローグから始まるが、エンディングムービーにおいてそれが「Sarah Kid Zeal」なる人物の、本編での出来事を綴った手記であることが示唆される。HOME及びANOTHERの住人はフェイトの消滅によりその管理から解放されたが、時間軸上に時喰いが存在しているため依然として「プロジェクト・キッド」には関与しており、時間軸上に本編が存在しているはずなので、当然本編の記憶を有している。よって、この手記はANOTHERキッドが著したものだろう。

また、この解釈だとHOMEはA.D.2400でフェイトの自爆により滅亡しており、ANOTHERも遠い未来のおいては時喰いによって世界の時間を止められてしまう。キッドがエンディングで言っていた「たしかにオレたちは世界のすべての謎をとくことも、すべての哀しみをいやすこともできはしないだろう」という独白は、それについて言及しているのかもしれない。またNEWの、時喰いが解放されただけで根源的な部分は解決していない、ということを指しているとも考えられる。

その他の考察

ヤマネコ編での並行移動

物語序盤、セルジュはオパーサの浜でANOTHERへ並行移動する。HOMEとANOTHERの分岐点がセルジュ自身である為に、次元の境界線がセルジュにとって不確かであること、本編後のキッドがHOMEにいたセルジュをANOTHERから呼びかけ、並行移動のキッカケを与えたこと、星色のお守り袋がそれを可能にしている。しかし物語中盤、並行移動に不可欠だった肉体を奪われたセルジュはワームホールを利用出来なくなってしまう

その後セルジュ(ANOTHERヤマネコの肉体)は死海の番人であるミゲルを打ち倒すが、この事で龍神に凍てついた炎を奪われることをおそれた死海のフェイトは凍てついた炎を消滅すべく死海ごと自爆してしまい、辛うじて存在していたHOMEフェイトはこれで完全に消滅してしまう。この直後オパーサの浜へ行くと再び次元のゆらぎが発生しているが作中では特に言及されないので少し考察したい。

HOMEとANOTHERの分岐点はセルジュの生死にあるが、作中でも度々言及されているようにそれはフェイトの生死とも符合する。とはいえHOMEにおいてもフェイトはまだ存在しており、パレポリ軍がヤマネコと関係を持ちラディウスも面識があることからHOMEヤマネコの存在も示唆されている。ツクヨミが「(ANOTHERにとってヤマネコの肉体が)余分なかけら」と発言しているように、カオスフィールドから帰還した直後の状況ではヤマネコ(フェイト)は「失われたピース」ではない。

しかしHOMEフェイトの自爆によってヤマネコは「失われたピース」となる。本来であればフェイトが存在するHOMEフェイトが存在しないHOMEに分岐するはずだがフェイトの消滅と死海の消失はセルジュの生死と符合し、HOMEとANOTHERに沿う形で時間軸を分岐させることになるため、ANOTHERヤマネコの肉体でもHOMEとANOTHER間を移動できるようになったのだろう。

ヤマネコ編におけるキッド

セルジュの肉体を奪ったフェイトは、その「非常に不安定な精神状態からダークセルジュとして大陸で破壊活動を繰り返す」*47が、キッドは依然として行動を共にし、ヤマネコを討ち、凍てついた炎を入手することに執着している。サラのペンダントで記憶が無く時間を遡っているとしても不自然と言える。

キッドには「本人も知らないサラの人格が内在している」 物語前半で凍てついた炎を追い求めていたのはヤマネコと接触したルッカの様子からその危険性を察知していたからで、セルジュに関わろうとするのはルッカハウスイベント*48の影響と考えられるが、ヤマネコ編からはサラの「無に帰りたいという強い衝動」が反映されているらしく、その願望を叶えるため、セルジュというよりは調停者、もっと言えば凍てついた炎に関わることを第一としているようである。

本編におけるツクヨミの言動

ヤマネコ編より前、ツクヨミはセルジュに対し忠告と称して何度も冒険を止めるよう勧めるが、フェイトにとっても龍神にとっても凍てついた炎の入手は最優先事項であり、その為にセルジュの肉体が必要である以上、そうする理由は何も無い。「その娘(キッド)は、あんた(セルジュ)に災いをもたらすよ~」という発言から考えても作戦上フェイトから最低限の歴史データはもらっており、セルジュが自らの意思で冒険を止めるはずがないことも当然知っていたはずである。

しかしツクヨミ龍神でありながらサラの次元干渉によって「キッドが誕生すると同時に第七の龍として生を得た」存在でありキッドとは「表裏一体」かつ「人と龍の架け橋」という立場にある。そのため彼女としては出来ることなら事態を進展させたくなかったのだろう。ただセルジュ自身が冒険を止めるのは問題無いが、止めさせることは龍神としての立場上、またはフェイトの監視があるのか出来ないらしく、最後まで強い忠告はしない。止めたい気持ちは本気だがダメ元で忠告している、といった風である。

ヤマネコ編からはフェイトが凍てついた炎を利用出来る状態になっているため事態を進展せざるを得ない為か、今度は逆にセルジュ(ANOTHERヤマネコの肉体)に協力し、助言を与え、時に励まし、フェイトを倒すように仕向けていく。しかしセルジュの肉体を取り戻す方法を問われて「龍の涙…まあ、教えられるのはここいらまでだね」と濁したり*49、「世界かあたいかどちらか選べって言われたらどっちをとる?」という質問からも受け取れるように、依然として割り切れない心境にあり、最後の最後まで龍神「人と龍の架け橋」という二つの立場の間で揺れながら、あくまでも龍神としての使命を優先する自分を責め、セルジュへの裏切りを密かに詫びて姿を消す。また、その際に星の子を仲間に入れていた場合は「どんな哀しみにだってちゃんと答えが出るんだ。いつか、きっとな」と諦観にも似た心情を吐露している。

ツクヨミの心境についてシナリオライターは「彼女は、運命に翻弄され、いいように振り回されるセルジュに、自分の姿を重ねていたのかもしれませんね」と述べている。

サラの容姿について

こまけぇこたぁいいんだよ

マジレスすると「サラの分身」たるキッドが思いっきりサラの容姿だったらネタバレが過ぎると考えてかけ離れた容姿にする必要があり、逆にエンディングではキッドの母体たるサラとして表現、演出するためあのような姿にする必要があったのだろうと考えるのが妥当だろう。髪色くらいは同じでも良かったように思うが。

エピローグの写真には成長したキッドと思わしき人物が写っているが容姿がサラにそっくりであるため、サラも幼い頃はキッドのような姿だったのかもしれない。まあ…この辺はもうメタを踏まえて受け入れるしかない。幼くなっているのも時喰いに魔力吸収されていたからとか、なんかそういうファンタジー的な何かでどうにか。

*1:曰く「すべてを説明する必要はないと自分は思います。必要最低限なことさえきちんと語られていれば、あとは受け手にそれぞれ自由に想像してもらえたらと」

*2:凍てついた炎と同調できる者の総称。その設定からセルジュ以外の存在も示唆しているが本編ではセルジュのことを指す。またサラは「調停者に近い存在であった」とされている。

*3:ラヴォスの欠片の総称。本編ではガッシュが発見した特別大きなものが登場し、基本的にはそれを指す言葉。発見したこと自体は計画ではなく単なるフィールドワークだったと思われる。

*4:星のエネルギーである6種類のエレメントを一つにより合わせ、それによって調和をもたらし、星の負の感情を還元する伝説のエレメント。龍人の遺産である龍の涙から生成される。

*5:クロノシリーズの舞台となっている惑星。西暦もあるしどう見ても地球だが、そのように呼称されたことは一度も無い。意思を持っている存在とされ、前作でも今作でもラヴォス排除の為に次元へ干渉する。

*6:ANOTHERで挑めるのは2周目以降のマルチエンディング用ギミックでストーリーとは無関係。

*7:「すべてはいまここに、クロノ・クロスを手にしたあなたを立たせるために存在したのよ」

*8:シナリオライターによればHOMEキッドはエルニドではなく、前作の舞台である「大陸」で活動している。

*9:ガルディア王家に代々伝わっていたペンダントだが、元はサラの所有物。次元に干渉する力を持ち、前作ではタイムゲートを開くキッカケとなった。キッドが生死に関わる危険な状態に陥ったとき、その記憶を消した上で安全なところまで時間を遡る力を持つ。キッド自身もこの現象を把握しているが、ペンダントの力には気付いていない。PS版クロノ・トリガーではサラ自身がキッドに持たせたと推察できるシーンが追加されている。

*10:ルッカハウス襲撃の夜、キッドが拾ったルッカの私物。極小ブラックホールを利用して作った「時のたまごの試作品(ドリーン曰く「不完全」なもの)」が忍ばせてあり、自力では機能しないが、何らかの力の干渉を受けることで時空移動が可能になる。本編においては並行移動とルッカハウスイベントを発生させるアイテム。

*11:シナリオライター曰く「時に銃弾を撃ち込んで世界を変革するもの」

*12:ガッシュが設立した時間研究所を前身とし、前作にも登場したマザーブレインを基に作られたフェイトをマザーコンピュータとする研究所。時間だけでなく、生体に関する研究も行われている。

*13:凍てついた炎と極小ブラックホールを用い、時間を遡ることを試みた実験。

*14:前作の原始時代において「人類に打ち勝った時間軸」の恐竜人が進化した種族。星のエネルギーを利用しながら星と共存するように生きていた。シナリオライターは「進化にラヴォスが関与したかどうかはわかりません」としているが、少なくとも星にとっては人類より好ましい存在だったのだろう。

*15:龍人の城。クロノポリスと対等な武力を持っていたようである。本編では星の塔として登場する。

*16:元はエルニド海全域を指していた龍人の言葉。そのため龍人の遺産はエルニド海全域に存在している。タイムクラッシュ後はその爆心地を指す。

*17:龍人が自然管理に利用していた生体マシン。本体は星のエネルギーそのものであり、実体を持たず、龍の姿は端末に過ぎない。

*18:自然エネルギーを利用するための道具。前作において現代人が使えないはずの「魔法」に相当するものだが、物理的に存在し一般に流通しており、港町パレポリの軍国化、それによるガルディア王国滅亡の要因と思われる――という文章を書いた数年後にDS版クロノ・トリガーが発売され軍国化にはダルトンが絡んでいることが判明。シナリオライター曰く「大活躍してるはず」 と言っても彼自身の力ではクロノ達に太刀打ちできず、エレメントの存在は渡りに船だっただろう。

*19:A.D.2300にいるのは事故によるもので本来はB.C.12000の人物。

*20:ラヴォスが飛来する以前より存在した鉱石。これを素材としてサラのペンダント、グランドリオン、魔神器など強力なアイテムが生成された。

*21:ドリストーンと凍てついた炎は「同種のもの」であって同一のものではない、という説もあったがリマスター版の発売に際してシナリオライターがその説を否定した上でこのように断言した。彼はほとんどの説明を「かもしれません」と締めたり、あくまでもプレイヤーの解釈に委ねるので、解釈を否定したり断言することは極めて珍しく、これについては物語の根幹に関わる設定なのだろう。

*22:ラヴォスが無性生殖したり外殻を飛ばす攻撃をするので宇宙からそれらが飛来したのだろう。

*23:シナリオライター曰く「豹の姿をした魔物のことです。一見豹ですが、ただの豹ではないです。」これも珍しく設定について断言しているので何かしら意味があるのかもしれないが、この考察では特に触れない。

*24:本編で登場する龍の姿、つまり端末としての意識が復活したものと思われる。

*25:亜人の村。当時は人間と友好的な交流を持っていた為、セルジュの父ワヅキはここで息子を治してもらうつもりだった。

*26:キッドがサラの分身としてではなく、キッドとして生きること。

*27:魔力を持たなかったため国から追放されていた。それが結果的に王国崩壊の際に生き延びる要因となり、その子孫である人類は魔力を失った。

*28:フェイトの基となったマザーブレインに組み込まれた、マザーコンピュータ暴走対策プログラム。マザーに感知されずプログラム内に存在する機能を持ち、マザーが施設に対して持つアクセス権をロックする。

*29:ヒョウ鬼に襲われて瀕死の重傷を負ったセルジュを助けるため、マブーレの賢者に診せようと舟を出すが、サラの次元干渉により大嵐に巻き込まれ、クロノポリスに漂着。セルジュが凍てついた炎と接触した際、その余波で精神に異常をきたす。

*30:フェイト自身はクロノポリス内のマザーコンピュータに過ぎないので、それまでエルニド海へ物理的に干渉することができなかった

*31:セルジュの母マージの話からすると、セルジュが調停者となった直後から神の庭は死海化しており、それほど切迫した状況でセルジュを4年も放置するとは考えにくいので、ワヅキのヤマネコ化に時間がかかっていたか、死海化がクロノポリス内部にまで及んだのが4年後だったと思われる。

*32:前作で暴走したマザーブレインと、それを打ち倒したプロメテス(キャラクター名ロボ)を目の当たりにしたことでプロメテウスの基本概念を作り、その1300年後にガッシュが実用化した。

*33:プロメテウスをプログラムした張本人でありルッカ同様にプロメテウスを解除し得る人物。

*34:あくまでもクロノポリスから観て運命の書を介せないという意味であってHOMEヤマネコとしては介入できている

*35:マブーレへ舟を出したワヅキに同行する。クロノポリスにおいてフェイトに吹き込まれたのか、前作の歴史改変や本作のパラレルワールド、タイムクラッシュなど、重要な情報を全て把握しており、そのために未来の世界というものに圧倒され、魅せられ、死海の番人としてそこに留まる。

*36:肉体を取り戻されること自体は歴史として把握していたという主旨の発言をするが、妨害の失敗を「歴史」として把握しているなら妨害自体しなかったはず

*37:公式設定としてラヴォスが倒された時代。

*38:死海で荒れ狂う海と波が静止しているのも時喰いによるものだろう

*39:時喰いが存在する場所。DS版クロノ・トリガーに登場する夢喰いは「時の闇の底」にいる。作中でも公式設定でも登場する単語だがガッシュルッカ共に言及せず、これ自体には公式設定が全く無いという謎の空間。妄想で解釈するしかないが、その分パラドックスをどうとでもできる便利な概念。ただし「次元の渦」や「時の最果て」からアクセスできることはゲーム内から見てとれる事実。

*40:タイムクラッシュは時喰いではなくB.C.10000のラヴォスの所業。

*41:重傷のセルジュはマブーレの賢者が治療しただろう。

*42:「プロジェクト・キッド」が発案された時代。

*43:特にリーアが本編の経験を通じて子供の名前を「エイラ」にすると発言しているのは大きな根拠。

*44:フェイトの原型となったマザーコンピュータ。前作において人類を排した機械だけの理想郷を創造しようと暴走するが、自身が製造したロボ(プロメテス)によって破壊される。ルッカはこの件からセーフティ・プログラム「プロメテウス」を理論構築。ガッシュが実用化する。

*45:ダークセルジュ曰く「再起動したガード・システムはおまえ(セルジュ)以外のアクセスを受け付けなくなっていたのだ」

*46:タイムクラッシュを引き起こす要因となった反時間転移実験の際は、凍てついた炎のロックをレベルDまで解除しているので少なくともそこまでは利用出来る。その上があるという根拠は無いが、仮にDを最高レベルとするとこの件が大変な矛盾を生むので、Dは最高ではない、ということにしておく。

*47:アルティマニアではこのように解説されており、セルジュを貶める目的ではなかった模様。そもそもセルジュがヤマネコになっているのだから貶める理由も無く、また破壊活動をする時間があるなら凍てついた炎にアクセスすべきだが、HOMEフェイトが人類に強い愛憎を抱いているようにANOTHERフェイトも精神面で狂い始めているのだろう。

*48:今作のサブイベント。ルッカハウスがヤマネコの襲撃を受けた5年前に本編のセルジュが介入。当時11歳のANOTHERキッドを救出したことで、本編開始以前から面識を持っていたことになる。

*49:セルジュが肉体を取り戻せなければ龍神はかなりの劣勢を強いられる