概要
ゲーム内テキストの大部分を占める「ファイル」の内容を写したもの。考察用(特に乙月要の足取りについて)一部誤字脱字、表記ゆれ、歴史的仮名遣いのミス(詰めが甘かったり、現代仮名遣いのファイルで用いられるなど)もあるが原文ママとする。私のミスだったらそれは申し訳ない。
- 概要
- 資料
- 古書
- 戒ノ儀文書
- 「異界」研究者の手記
- 刺青模様の日記 一
- 刺青模様の日記 二
- 刺青模様の日記 三
- 破戒ノ文書
- 身切ノ文書
- 祓ノ灯火文書
- 紫魂ノ儀文書
- 逆身剥ギ文書
- 刺魂ノ儀文書
- 更紗模様の手記 一
- 更紗模様の手記 二
- 守谷ノ文書 一
- 守谷ノ文書 二
- 守谷ノ文書 三
- 守谷ノ文書 四
- 赤い表紙の日記 一
- 赤い表紙の日記 二
- 青い表紙の日記 一
- 青い表紙の日記 二
- 青い表紙の日記 三
- 碧の表紙の日記
- 灰色の表紙の日記
- 紫の表紙の日記 一
- 紫の表紙の日記 二
- 紫の表紙の日記 三
- 紫の表紙の日記 四
- 咎打チ文書写シ
- 禁忌ノ文書写シ
- 刻ミ女文書写シ
- 民俗学者の手記 一
- 民俗学者の手記 二
- 民俗学者の手記 三
- 紅い表紙の日記
- 「紅贄祭」について
- 「双子巫女」について
- 其ノ他
- カセットテープ
- 乙月要やその周辺に関する考察
資料
唄ト伝説 一
深紅が調べてきてくれた古い民俗学の再販本。夢で聞いた子守唄に似た唄が掲載されている。
陸奥地方の山間部には、一部の村々にのみ伝はる古い子守唄が在る。
「眠り巫女 第一節」
ねいりなさよ はたて
ねいりなさよ はたて
なくこは ふねのせ ついのみち
いちわらきせて おんめかし
ねいらせな さかみはぎ
「眠り巫女」と呼ばれるこの唄は、同じ山系に在る集落のうち、限られた幾つかの集落にのみ伝はつて居り、遠近や街道に因りて伝はつたのではないかと思はれる。
『巫女』と云ふ属性も表してゐるやうに、この唄は元来、いずれかの宗教、伝はり方から推測するに、土着の民間宗教儀式にその発端があると思はれる。
さて、歌詞を見ると、枕になつてゐる「ねいりなさよ はたて」と云ふのは先づ子供らへの寝入りの呼びかけ、調子であらう。
「はたて」の意味は確かではないものの、この地方で「云ふことを聞かぬ子供」の呼び名が「あだて」で在ることから、子供を意味するのではないかと思はれる。
中盤の「なくこは ふねのせ ついのみち いちわらきせて おんめかし」の部分は、「泣く子は」に対し「舟、道」と云ふ属性を被せてゐることから、追放を連想させて、子供をおどかして眠らせる「おどし唄」の文句であると読み解ける。
「いちわら(一丁裏)」「おんめかし」は、上記の流れより「飾り付けて貰はれて行く」と云ふ描写に見ることができる。
さらに、「ねいらせな(眠らなければ)」の後に、「さかみはぎ」と云ふ恐ろしげな言葉を重ねることで、子供へ向けての云ひ聞かせを印象付けてゐる。
おそらく、本来宗教儀式に使はれてゐた唄が子守唄として使はれるに従ひ、陸奥に多く見られる「おどし唄」の属性に変はつて行つたのではないのだらうか。
「さかみはぎ」は、大祓詞の天津罪「逆剥」*1を語源としてゐると思はれるが、その点もこの唄が本来宗教儀式に関つてゐたことを物語つてゐる。
「眠り巫女 第二節」
ねいりなさよ はたて
ねいりなさよ はたて
みこさん あいまに おきつかば
ししにき うがつて いみいのぎ
くもん ひらいて やすからず
第二節に於ひてもほぼ等しき展開、要素が用ひられてゐる。
「みこさんあいまにおきつかば」は「巫女が何れかの儀式(子守唄としては農作業等)の間に起きてしまふ」と云ふ意味であり、起きてしまつた巫女、子供は「しし(四肢)」に、「き(木)を穿つ」と脅す。
後の「いみいのぎ」と云ふ言葉は、恐らく宗教的な言葉の名残であらう。
最後の「くもんひらいてやすからず」の部分に関しては、これまでの巫女(子供)を中心とした小さな話から、漠然とした「くもん(門)が開いてやすからず」と云ふ大きな不安を見せて結んでゐる。
これは、宗教的な恐怖、例へば地獄への恐怖を表してゐるのだと思はれる。
唄ト伝説 二
螢が見つけてきた民俗学の本。夢で聞いた子守唄についての解釈が掲載されている。
陸奥に伝はる子守唄「眠り巫女」に就ひてさらに蒐集を重ねてゐたところ、より原曲に近いであらう歌詞を知るに至つた。
その歌詞を読み解くことから、この歌の成り立ちと意味に就ひて考へて見る。
「眠り巫女 第一節」
ねいりゃさよ はたて
ねいりゃさよ はたて
なくこは かごぶね ついのみち
いちわらきざんで おんめかし
ねいりゃせな さかみはぎ
前回掲載した「ねいりなさよ」は、より古い形では「ねいりゃさよ」、「いちわらきせて」は「いちわらきざんで」となる。
いちわらを「きざむ」と云ふ表現が珍しく、これは同地方に伝はる「文身行者」伝承に繋がるのではないかと思はれる。
本来の宗教曲としては「刺青を刻む」と云ふ意味を表してゐたのではないだらうか。
「眠り巫女 第二節」
ねいりゃさよ はたて
ねいりゃさよ はたて
みこさん あわいに おきつけば
しせいぎ うがつて いみいのぎ
くもん ひらいて やすからず
この地方での口碑伝承と蒐集したところ、山岳地帯にも拘らず、死者の御霊を「海」へ送る異界信仰の残滓が伺へた。この「海」とは「黄泉」を意味するのではないかと考へられる。
「くもん」の「もん」が「門」即ち異界の門だとして、その門が「ひらいて、やすからず」となると、異界への門が開くことにより災厄が起こる、と云ふ風に読み取れる。
この唄は、元来その異界の門を守る為の儀式に関る唄だつたのではないだらうか。
「眠り巫女」と云ふ題名、巫女が「おきつく」と云ふ表現から、眠り、眠らせると云ふ要素に対し「うがつ」と云ふ要素を合はせると、巫女は「眠りにつかされる」つまり「眠らせられる」と云ふ、人身御供的な側面を読み取ることもできる。
その儀式、宗教に関るであらう伝承と、地方の文献に残されてゐた絵図を合はせて掲載しておく。
この絵図に拠ると、絵図の中央には小さな社が描かれて居り「刻宮」と添へ書かれてゐる。唄の「刻んで」と云ふ部分からも、ここで唄はれてゐた唄であると云ふことが窺へる。
「刻宮」の奥には巨大な海(黄泉)が在り、刻宮が此の世と彼の世の境界として描かれてゐると云へる。
絵図に添へ書かれてゐた伝承は、以下のやうなものである。
生肌断チ 柊 刻ミテ 刺青木 穿チ
久遠ニ 鎮メテ 狭間ニ 眠ル
この伝承に於ひても、歌詞と同じく「穿ち、鎮め、眠り」等、人身御供的な側面を読み取ることができる。
唄ト伝説 三 原本
屋敷に残されていた、子守唄に関する本の原本らしきもの。唄の最後の一節が掲載されている。
「久世ノ宮」と呼ばれる神社を中心とする、奥深き閉ざされた村落では、未だ口碑伝承と元にした「儀式」が続けられて居り、それを受け継いでゐる「久世家」が存在する。
蒐集と続けるうち、私は久世の村落に客人として迎へ入られることが許された。
以下は、実際に其処で蒐集した話である。
この社ではやはり「刺青」に関係する神事を執り行つて居り、「眠り巫女」はその儀式で唄はれてゐるものである。
その唄は、此処では「鎮メ唄」と呼ばれ、刺青が刻まれる儀式に際し、巫女が受けし「柊」を鎮める為に唄はれると云ふ。
「柊」とは、同名の樹木の名称と同じく、「疼ぐ」(ひいらぐ)を語源とし「痛み」を意味していると思はれる。
実際の儀式に就いて見学を申し入れたが、儀式が行はれる「久世ノ宮」は男子禁制とのことで、断られてしまつた。
この「鎮メ唄」には下界に伝はつた「眠り巫女」には無い、隠された一説が在る。
しかし、その歌詞の意味を伝へる者はすでに失はれ、久世家でもはつきりとした意味は伝承されて居ない。
私なりの仮説で、この歌詞を読み解いてみやうと思ふ。
「鎮メ唄 第三節」
ゆきなさよ はたて
ゆきなさよ はたて
ゆきぶね ゆらして はたて
このきし ひらいて はたて
ろうろう みわたり かのきしに
しせい わたして なくが てあげ
冒頭部の「ねいりゃさよ」が「ゆきなさよ」と変化してゐることから、唄の内容が展開してゐることが分かる。
「はたて」とは、以前の発表でこの地方の言葉で「云ふことを聞かぬ子供」『あだて』であるとしてゐたが、屋敷内の文献を調べると其れは間違ひであり、此の世の果て、つまり彼の世との境を意味する場所が『涯』(はたて)であるとされてゐる。
「いちわら」と刻まれし巫女は「ゆきなさよ」と「はたて」へ送られる。
この地方では、雪の折に駕籠でゆられてはこばれることを舟に見立てて「雪舟」と云ふが、「ゆきぶね」はそれに「逝く」と云ふ意味を掛けてゐるのだらう。
「このきしひらいて」は、「彼ノ岸」つまり彼岸に対する「此ノ岸」、此の世のことであり、其処から「門」を開き「ミワタリ」で「彼の岸」に送られる。
「しせいわたしてなくがてあげ」とあるが「しせい」は第一節の「きざむ」から「刺青」であるとして、其れを渡して「なく」泣くのが「てあげ」この地方では手向け、最後の別れと云ふ意味で使はれる言葉である。
この最後の一節は「いちわら」を刻まれた巫女を「彼ノ岸」に送り出す時に唄はれるものなのではなからうか。
それが人身御供を意味するのか、刺青を背負つて逝く巫女をねぎらふ唄なのか。実際の儀式を確認できぬ限り、断じることはできない。
文身(刺青)の民話
深紅が借りてきてくれた民俗学の本。写り込んだ刺青と似た図が描かれている。
この文身(図)の組み合はせ「蛇・柊」は、主に北東北を中心に伝はつてゐる。
この図案は、北東北に古くから伝はる民話の一つ『文身娘』に通じてゐるものであるやうである。
「文身娘」
自らの想ひ人を亡くした娘が、その男を忘れないやうに、残された想ひの痛みを、柊の文身として飾る。
しかし娘はまた恋に落ちる。そして、またその想ひ人を失つてしまふ。娘はまた、その想ひを文身として体に刻む。想ひ人の魂が神に送り届けられるやうに神の遣ひである蛇を刻む。
娘は恋と死別を繰り返す。そして、繰り返すうち、娘の肌は文身で埋まつてしまふ。
娘は文身の疼きに耐へ切れずに心を失ふ。その間に、娘の心、魂は刻まれた蛇に食はれてしまふ。
この伝承は平野部に広く伝はる伝承であるが、伝はる地域により多少の差異が見られる。
山間部へ蒐集を続けると、次第に以下のやうな話に変容して行く。
これは『文身行者』と呼ばれるものである。
「文身行者」
想ひ人を亡くした娘が、山の行者に心の痛みを納め(打ち明け)に行く。
娘の痛みを聞いた行者は、自らの身に蛇と柊の文身を刻み、その痛みを引き受ける。
その話を聞いた村の人々は行者に次々と痛みを納めに行く。
やがて、行者の全身は文身に覆はれる。
多くの痛みを引き受けた行者は文身に刻まれた痛みの寝目(夢)に囚はれ、目が覚めぬやうになり、最後には、文身の蛇に食はれてしまふ。
この話は、さらに悲劇的な終末を迎へる形もある。これは人々を戒める説話的なものとして伝はつたものであると思はれる。
「文身行者(二)」
全身にを*2刻まれた行者は終に己の目にまで文身を入れてしまふ。
そうすると、文身の入れられた目は鏡となり、行者に刻まれた痛みは全て刻んだ人々へはね返され、
文身を納めた人々はことごとく蛇に食われてしまふ。
「鏡となる」と云ふ件は、蛇の古語である「カカ」の目を「鏡」と見立ててゐるのだと思はれる。
話の変遷を推測するに、山間部で伝はつてゐた「文身行者」の伝承、説話が平野部に伝播した際に物語化し、覡(おかんなぎ)的な要素を持つた行者の物語は、町娘の愚かな恋の物語に凋落してしまつたのであらう。
これらの民話から見られる「蛇と柊」の文身の意味とは、「柊」は木の名前と同じく「疼く」の意味から死者への想ひ、心の痛みを意味し、「蛇」は民話の言葉どおり神の遣ひとしての意味と、娘や行者を食ひ殺してしまふと云ふ死者の想ひ、情念と云ふ意味を兼ねてゐるのではないかと考へられる。
文身行者と蛇の刺青
優雨の古い荷物の中にあった、民俗学の本。柊と蛇の刺青の意味などが記されている。
北東北に伝はる民話、「文身行者」に就いて、この文身(刺青)の紋様「柊と蛇」に込められてゐる意味をさらに考察してみる。
新たな蒐集により、この話には以下のやうな別の変容をした例を確認してゐる。
「文身行者(三)」
自らの想ひ人を亡くした娘が、山の行者にその心の痛みを打ち明ける。
話を聞いた行者は娘に文身を刻む。その日以来、娘は男の寝目(夢)を見る。しかし娘は新たな恋に落ちる。すると文身の寝目は忌目(悪夢)と変はり、文身は毎朝毎夜激しく痛む。
娘は忌目となった文身を落とせぬものかと、再び行者の元へ行く。
行者は山に湧く泉の水で文身と洗ひ落とす。そうすると、文身の蛇は水を泳ぎ、泉の奥へ消へて行く。
文身の忌みとしてはほぼ同じものであると考へられるが、この話では最後が大きく違ひ、文身は洗ひ落とされて娘や行者は死ぬことは無い。
これは「蛇」の持つ山神、水神としての性質が大きく出たものであり、また、より民衆化されて幸福な終局が作り出されたものではないかと思はれる。
「蛇」の性質である「山神、水神、嫉妬、情念」などが全て表れてゐる興味深い伝承であると云へる。
祭祀道具と仏像
優雨の部屋の本棚にあった民俗学の本。写り込んだ像と似た写真が掲載されている。
この仏像は秋田の山中にある、名称不明の廃寺から見つかったものである。
直立しているが、手には手綱を持つような仕草をしているという、他には見られない特徴を持つ珍しい仏像である。
寺は長い間ほお撃ちされていたらしく、天井や床は抜け、書物の類は全て読むことすらできない状態であった。
調査から、仏像にはわずかではあるが血が付着しており、また発見された廃寺の床にも同様の血の跡が見つかっていることから、何れかの民間神事、供犠に使われたものであろうと思われる。
周囲の山村などにはその寺にまつわる口碑、文書などは残っておらず、詳細は謎のままである。
井戸より多数の人骨
深紅が見つけてきてくれた古い新聞記事。写り込んだものと似た井戸が掲載されている。
民俗習慣調査のため、ある廃村を訪れてゐた一行が、村奥の祠の床下より注連縄が渡された古井戸を発見した。
既に水は枯れてゐた為中に降りたところ、内部よりおびただしい数の人骨が出土したと云ふ。
調査に同行した者の言によると、その多くは子供であり、凡て男子であつたこと、供物らしきもの、器の類など、神事に使はれるやうな祭祀道具も発見されたことから、飢饉の時に行はれた口減らしや、雨乞、もしくは何らかの因習の為に投げ込まれたものではないかと思はれる。
串人形と山間宗教
優雨の部屋の本棚にあった、串に刺された人形と似たものが掲載されている民俗学の本。
藁や土、布などで作られた人形に布(服)を被せてカミサマとして祀ると云ふ習慣は多くの地方、特に山間部に民間宗教として残つてゐる。
写真の人形は岩手在住の読者氏からの報告である。この人形はクシミサマと呼ばれ、ムラに死者が出ると、死者の毛髪を藁に編みこみ、その死者の着物を着せて作られる。
人形は串に刺され、山境いの祠(元は神社があつたとされてゐる)前に立てられる。
死から約一ヶ月が経過するまでその人形はそこに祀られ、その期間を過ぎると、様々な供物と共に祠の裏手にある川に流される。
土地に伝はる伝承では、その山には神の世界と繋がる穴があり、クシミサマとなつた死者はムラとヤマの間に立ち、ムラに残つた厄を背負つて神の世界へ行くと伝へられてゐる。
周辺の村では、同じやうな人形がイグシサマと呼ばれ伝はつてゐるが、そちらでは若くして亡くなつた人の魂をヤマに祀るものとされてゐると云ふ。
どちらもムラとヤマ、人と神の領域を隔てる場所に立てられる守り神的な側面と、死者に厄を背負はせる、若者の魂をヤマに祀るなど、人身御供的な側面を持つてゐると推測できる。
城跡より多数の人骨
深紅が見つけてきてくれた古い新聞。墓石が詰まれた場所から多数の人骨が発見されたという記事。
八日、県北部山中に遺された古城跡n調査に於て、地中より多数の人骨が発見されると云ふ事件があつた。
城跡中央に位置する中庭と思はれてゐた場所から多数の積まれた墓石が出土し、その下から次々と人骨が発見されたと云ふ。
人骨は何れも城の築城時のものと見られ、その装束などから築城に関つた人夫たちではないかと云はれている。
城の構造や埋蔵金などの秘密を守るために完成後埋められたものか、城を築くにあたつての人柱ではないかとみられてゐる。
埋められた木乃伊
深紅が見つけてきてくれた古い新聞。壁から発見された木乃伊(ミイラ)について。
先月より行はれてゐる久海寺再建の場に於て、廊下の壁から多数の木乃伊が発見されたと伝へられる。
久海寺には蔭神廊下と呼ばれる壁に人の形をした染みのある廊下があつたが、その廊下の修復工事の際、壁より木の根のやうなものが出てゐると云ふ者があり、其れを掘つて見ると木乃伊だつたと云ふ。
廊下にある他の染みの場所からも、同じやうに多数の木乃伊が発見され、騒ぎとなつた。
久海寺は、これを何れかの上人が祀られたものであるとしてゐるが、ある識者は人柱ではないかと論じてゐる。
宮大工と呼ばれる人々
深紅が調べてきてくれた、民俗学の本。夢で撮影した写真と似た写真が掲載されているらしい。
「宮大工」とは、寺社仏閣などを建立する専門の大工達のことである。
かつては「寺社番匠」と呼ばれていたが、明治の神仏分離、廃仏毀釈を境に「社」より上に位置されていた「寺」を無くし、「宮大工」と呼ばれるようになった。
彼等の間では「民家を建てては穢れる」と言われ、建築の依頼が無い合間は農作業などをしつつ、少ない現場経験で特殊な技法、腕を磨いていく。
一つの寺社専門に仕える大工たちもあり、その木工頭(棟梁)には、特別な技法や工法、呪術的な建築技法なども伝わっていることがあるという。
写真は棟上時に撮影されたもので、木工頭を中心に、施工に関った宮大工たちが並んで写っている。
写真のような白装束、烏帽子姿は、棟上式などの祭事用に着用されたものであるが、かつては「神仏を崇めずして寺社番匠では無い」として、建設作業もこのような装束で行われていたという。
その姿には信仰心という側面もあるが、宮大工としての誇りや腕を人々に見せるという側面もあったと思われる。
寺社番匠神隠シ
優雨の資料ファイルの中にあった古新聞。多数の寺社番匠(宮大工)が神隠しにあったと書かれている。
各地より多数の寺社番匠が行方知れずと伝へられてゐる。
今月に入つて計十名の寺社番匠が各地より行方知不と成つて居り「神隠し」と噂されてゐる。
十名の寺社番匠は何れも若くして評判の高き者たちで在り、うち数人かは「某所より秘社の再建に招聘されし」と伝へてゐたと云ふ。
水上で行方不明者
深紅が探してきてくれた地方新聞。「水上地方」で最近起きた行方不明事件について。
先月まで、二名の行方不明者が出ている水神ダム近辺で、またも行方不明者の報告があり、捜索願が出された。
行方不明となっているのは、東京都在住の天倉静さん(35)の長女の繭さん(15)。
繭さんは、夏休みを利用して妹の澪さん(15)とダム近辺の村に遊びに来ていた。
二人は1週間前から行方不明となっていたが、先日、澪さんだけが森の中に倒れているところを発見された。
病院に運ばれた澪さんは、身体に別状はないものの、極度の疲労の為話ができない状態となっており、警察では回復を待って後ほど事情を聞くことにしている。
地質調査員行方不明
優雨の資料ファイルに入っていた新聞。「水上地方」で最近起きた行方不明事件について。
水神ダム建設予定地の史跡調査のため、水上山中に入り行方不明となった槙村真澄さん(26)と、槙村さんを捜索に出て同じく行方不明となった槙村さんの婚約者、須藤美也子さん(25)の捜索が、昨日を持って打ち切られ、水神ダムの建設が再開されることになった。
水上山中では過去にも多数の行方不明者が出ており、地元には「神隠し」などの伝承が数多く残されていることから、今回の事件も「神隠し」ではないかと噂されているという。
警察では引き続き二人に関する情報提供を呼びかけており、二人の親族と協議の上、今後の対応を発表することにしている。
双子祀りについて
深紅が探してきてくれた、民俗学の本。地方の祭祀行事について書かれている。
中部地方山間部の一部の村落には、村に生まれた双子を巫女として祀る「双子祀り」という民間宗教儀式が伝承されている。
村に生まれた双子が一定の年齢(最も多い例で15歳)になると、白装束を着せた双子を巫女として、二人の帯を赤い紐で繋ぎ、神降ろしを行う。
この「赤い紐」は、双子を一人と見なすという意味があると言われており、周辺の地方に伝はる「双子が一つになった時に神の力を宿した」という言い伝えをもとにした風習であると思われる。
この祭りにより村は災厄より守られ、同時に豊作が祈られると伝わっている。
「縄ノ巫女」の伝承
優雨の本棚で見つけた「氷室邸」についての民俗学の本。著者は「宗方良蔵」となっている。
氷室地方にある五神鏡を守る五座の神社を訪ねるうち、氷室地方に伝はる黄泉の門伝承に就いて、興味深い古文書を拝見することができた。
それらの文献から、この辺りでは矢張り「黄泉の門」伝承に即した儀式が行はれてゐたという記述が見て取れた。
以下に、今回の蒐集で見られた幾つかの言葉を記す。
「御縛ノ儀式」
御縛りの儀式とは「門」即ち「黄泉の門」を封じる為の儀式であり、それには「裂き縄」と呼ばれる特殊な縄を使ふとされてゐる。
「裂キ縄」
門を封じる為に使はれる、特殊な縄。
「巫女の力を封じた」と記されてゐる文書もあつた。
「縄ノ巫女」
ある書物では、両手足、首に縄を結えられた女性が記された図が見られた。
彼女が「縄ノ巫女」であるなら、その結えられた五本の「縄」が「裂き縄」なおであらうか。
「裂縄ノ儀式」
巫女ニ御縛リシ御縄ヲ 五神ニ曳キテ
以テ裂縄ヲ作リシ儀式ヲ行フ
と記されてゐた。「五神」とは、氷室邸を
中心とした五つの神社の方向を意味すると思はれる。
巫女に結わえた「縄」を五つの方向へ「曳く」事により「裂き縄を作る」と云ふことであらうか。
巫女に結わえた縄がつまり「裂き縄」であつたとして「縄ノ巫女」とは人身御供的なものであつたのだらうか。
私は、近々氷室邸へ赴き、本格的にこの地の「黄泉の門」、そして「縄ノ巫女」伝承を繙(ひもと)いてみたいと考へてゐる。
救出された女性、失踪
深紅が見つけてきてくれた古い新聞。女性が病院から失踪したと書かれている。
13日未明、先月県内で起きた強盗事件により入院していた女性が病院より失踪し、捜索願が提出された。
失踪したのは浅沼切子さん(23)。
浅沼さんは事件後、精神的なショックから入院していたが、13日未明、医師が検診に向かったところ、病室から消えていたという。
浅沼さんは、先月、家族と自宅にいたところを2人組の強盗に襲われ、両親と弟の3名を殺害された。
浅沼さん自身は、両親により押入れに隠されており無事だった。事件より4日後、出られなくなっていたところを近所の人の通報により救出された。
病院側では管理体制の不手際を認めた上で、失踪した浅沼さんの捜索、保護に全力を尽くすとしている。
入院患者失踪
深紅のまとめた資料に入っていた新聞記事。瀧川吉乃の失踪について報じられている。
9日夜、葛*3木病院の病棟から患者が失踪し、捜索願が提出された。
失踪したのは、今年8月に起きた航空機墜落事故でただ一人助かった、瀧川吉乃さん(26)。
瀧川さんは、事故以来精神的に不安定な状態となり、外傷性ストレス障害と診断され、長期に渡り入院していた。
今回の失踪に対し、病院側の対応は「現在詳しい報告をまとめている」と発表するに留まっている。
瀧川さんは、同事故で親族、身寄りを亡くしており、その後の行方が心配されている。
各地、相次グ神隠シ
優雨の机に残されていた資料に入ってた古新聞。天倉螢氏が依頼していたものだろうか。
昨日未明、山中の明神村に住む母娘の二人が行き方知れずと伝へられた。
行き方知れずとなつてゐるのは、葛*4原蒔枝(くずはらまきえ)と娘の梢(こずえ)の二人。
二人は昨年来、同様に行き方知れずになつた夫を探し、毎日のやうに山中を彷徨つてゐたと云ふ。
通報した者曰く「数日姿を見ぬので様子を見に寄つたが返事がなく、部屋を見ると黒き煤のやうな跡を残して消へてゐた」と云ふ。
各地で同様の失踪事件が報告されて居り、これを「神隠し」と噂する者もゐる。
ラジオによる異界交信
優雨の部屋の屋根裏にあった、ラジオについて書かれた本。「麻生博士」に関する記述がある。
前出の通り、「神秘科学者」麻生邦彦氏は西欧の技術を積極的に流用することにより、日本に古くから伝わる「異界」信仰や伝承を解明しようとしていた。
そして、ついには「異界」との交信を実現するに至ったと言われている。
その最初の事例が、この「鉱石式異界電波受信機」通称「霊石ラジオ」である。
霊石ラジオの「霊石」とは後に麻生の朋友達が言うようになった言葉で、当時の麻生博士の研究書物には単に「鉱石」と記されていることが多い。
鉱石ラジオの原理とは、鉱石の検波特性を利用して波長の合う帯域の電波を拾うことであるが、麻生は、古来より日本のみならず世界的にも「石」が神秘性を持つものであるということに着目し、特殊な「鉱石」であれば、異界の電波を捉えることができるのではないかと考えた。
実験は成功したと言われ、通常の放送は流れていない帯域で音を捕らえることができたと記録されている。
音の内容を書き残した記録は既に失われているが、「過去の言葉である」「霊魂の言葉である」など、幾つかの証言が、麻生の朋友により残されている。
「異界」を映す技術
優雨の部屋の本棚に有った古い民俗学の本。写り込んだ映写機と似たものが掲載されている。
ここに掲載されている機器は、異界との交信、異界の存在の実証を目指していたといわれる麻生邦彦博士が遺したものである。
優秀な科学者であり、哲学者でもあった彼は、江戸末期から明治にかけて西洋文化の流入に伴い、それら新しい技術と自らの「異界」論を組み合わせ、異界の存在を実証しようとした。
そのうちの幾つかは実際に異界の「ありえない」存在を捕らえたとさえ伝えられているが、没後、その特異な謂れから、彼の機器は好事家たちの格好の商品となり、散り散りになってしまった。
その一つが、この映写機である。
彼は試作段階を終えた「射影機」(異界を写し取るカメラ。前出)の技術を流用し、フィルムに映しこまれた特殊な映像を、スクリーンに映し出す技法を完成させた。
記録によると、撮影時には見えなかった写像が映し出されたと言われている。
射影機と異界の実証
優雨の本棚にあった、古い民俗学の本。「射影機」というカメラについて書かれている。
「射影機」とは、江戸末期から明治にかけて、「異界」との交信、実証を目指した「神秘科学者」麻生邦彦氏が残した「異界」を写す機械である。
「神秘科学」とは、当時の西洋文化流入に合わせて、東洋的思想を西洋文化の技術で証明しようという動きであり、麻生邦彦氏はその「神秘科学」者の代表的な存在である。
「射影機」は彼の代表的な実験の一つで、当時まだ珍しかった「写真機」を、特殊なフィルムとレンズなどの組合わせにより改良し、本来目に見えない、いわば「位相のずれた空間」「精神体・霊体」などと呼ばれる「ありえないもの」を写し取ることができるというものである。
ごく稀にではあるが、昨今でも古物商などの間で取引されることがあるようだが、その多くは壊れ、「異界を見る」という現代の我々がなし得ない機能と、その功績は永遠に失われたままである。
古書
戒ノ儀文書
螢が廃屋近くの神社で見つけたという古文書*5。夢で見た古文書と同じものらしい。*6
少女*7が隠れていた場所に残されていた古文書。中は赤い墨で書かれている。*8
駕籠舟乗セテ 揺ラレ揺ラレテ
久世ノ宮ニ祀リ
生膚断チテ 刻ミ 刻ミ
柊 納メ
蛇目ニ 聲ヲ 刻ミ
自ラ 砕キ 砕キテ
想ヒ流ス可シ
刺魂ノ儀 終ワラバ
刺青木 穿チ 穿チテ
戒ノ儀ス可シ
久遠ニ 鎮メ 鎮メテ
狭間ニ 眠リ
棘獄二 篭リ 篭リテ
久遠ニ 柊 耽ル可シ
「異界」研究者の手記
深紅の部屋の天井裏、優雨の荷物から出てきた研究記録のような手記。麻生博士のものだろうか…
生と死の境としての夢を研究するにあたり、被験者を募る。明確に夢を語れることが条件とあつて審査は難航したが、「異界」と関りがあるやも知れぬ人物を発見した。
彼*9は数ヶ月に渡り、同じやうな夢を見続けると云ふ。それは、以下のやうな夢である。
一、気がつくと、雪の降る小さな社の前に立つてゐる。
二、その社は見たことはあるが、明瞭とした記憶は無い。ただ、郷里にそう云ふ場所があると聞ゐたことがある。
三、その社の奥より郷里に残して来た女性の声が聞こゆる。
四、声に誘はれ、毎日同じ夢の場所を少しずつ奥へと進んで行く。
此処までは通常在り得る、郷里の思ひ出や恋情など欲望が夢へ現出したものであると思はれるが、興味深きは以下の発言である。
五、其処には古の儀式を行ふ場所があり、死者に逢える場所があると云ふ。
六、社の億には巨大な洞窟があり、川が流れてゐる。その億には巨大な竪穴があり、その底は海になつている。
此は明らかに「異界」特に「黄泉」と云はれる場所に就ひての発言である。話を聞くに、彼の郷里には異界と夢に関する伝承があるらしく、此の夢はその話と一致する部分が多く見受けられた。
以後、四日に渡り記録した彼の夢の話は、以下のやうな証言としてまとめられた。
彼は陸奥の出身であるらしく、その地方には古くから山に「常世海」と呼ばれる海が存在すると云ふ伝承がある。
其処には「寝目」つまり夢に関する伝承が多い。例へば、夢は「狭間」と呼ばれる「異界と現世の境界」と繋がつて居り、悪夢を見続けると死者が黄泉返ると云はれてゐると云ふ。
「忌目」と呼ばれるその悪夢を見ぬやうにする為の社があり、其処には人々の忌目を引き受け、狭間に眠る巫女がゐると云ふ。
彼の聞く声は、その「異界」に関る社にゐる巫女の女性より「狭間」を解した交信ではないかと思はれる。
蓄音機に証言を記録した次の日の朝、彼は荷物も残し突如失踪した。郷里の女性の下へと向かつたのだらうか。
彼の残した耳飾りは「響石」と呼ばれる石で、古来より人々の思ひを伝へると云はれてゐる。
鉱石式受信機の改良に利用できるやもしれぬ。
刺青模様の日記 一
吊られた牢の中に落ちていた古い日記。巫女の想いらしきものが綴られている。
父も、母も、弟も、みんなみんな向こう側へ渡ってしまった。
私だけ、残ってしまった。
要さんと行けなかった、あの時のように。
久世のお宮様からお迎えが来られた。
引き受ける者がいない柊を持つ者が巫女となり、生肌断ちをすれば、同じ痛みを持つ多くの人々が救われるのだと。
でも、一度巫女となり、柊を刻まれると、もうお宮様の外には出られない。
村の全てが無くなってしまった。
父も、母も、弟も、みんないなくなって、私ひとりだけで生き残ってしまった。
もう、私には何も残されていない。
もう逢わないと決めてしまえば、それで私も久遠に眠ることができる。
たくさんの同じ痛みを救うことができる。
刺青模様の日記 二
砌ノ鏡と共に納められていた日記。刺青の巫女の想いが綴られている。
人々の想いを流す為、私は刺魂を受ける。
刻まれるたくさんの柊は、私に様々な夢を見せる。
色々な痛み、想い。残された痛み、行きて行くことの柊を、私は引き受ける。
でも、私は、私の痛みは、その痛みに溶けることなく、見えないところに刻まれて、残っている。
様々な痛みの中で、より鮮やかに、より鋭く私をひいらぐ。
私の柊は、誰も引き受けてくれない。
わたしだけのもの。
私の想いは、私の柊は、この蛇目に刻んで、ここで壊します。私だけの想いだから。
でも叶うことなら、もう一度逢いたかった。
刺青模様の日記 三
奈落の底にある篭の中に残されていた日記。巫女が最後に見た夢についてかかれている。
あの人の夢を見た。
狭間の中、無間の柊の中、奈落へと降ろされる私の前に、あの人が来てくれた。
当主様は気づかない。私の夢だから。
あの人が手を伸ばす。私も手を伸ばす。
その指が触れようとした時、少しだけ、柊が和らいだ。私は、私でいられた。
でも、触れられなかった。
多くの人の柊を刻まれた私でも、まだ私の、あの人の夢を見て眠れるのかもしれない。
久遠の眠りの中で。
破戒ノ文書
屋敷の奥にある書物蔵に収められていた古文書。「戒が破れて狭間が溢れる」と書かれている。
巫女ノ柊ハ 砌ノ蛇目ヘ映シ
無目ニテ 戒ヲ穿ツ可シ
巫女ノ無目ニ 刺眼ヲ刻ミシ時
無目ハ蛇目トナリテ 総テノ柊返サレ
戒破レテ 巫女目覚メ
門開キテ 棘獄ヨリ狭間溢レ出ル
溢レ出シ狭間
寝目ヲ通リテ 憂世ニ溢レ
忌目ト成リテ 想ヒヲ喰フ
身切ノ文書
屋敷の奥にある書物蔵に収められていた古文書。「砌(みぎり)の蛇目で扉を開く」と書かれている。
役儀ヲ終エシ 刺青ノ巫女ハ
柊映セシ蛇目ヲ以テ 涯ヘノ扉ヲ開ク可シ
柊映シシ砌ノ蛇目 砌ノ祠ニ於テ
己ガ手ヲ以テ砕キ 想ヒ流ス可シ
想ヒ流レシ 刺青ノ巫女ハ
終ノ路ヲ通リテ 奈落ヲ潜リ
棘獄ニ篭リテ 久遠ニ眠ル
祓ノ灯火文書
屋敷の奥にある書物蔵に収められていた古文書。「祓ノ灯火により瘴気が祓われる」と書かれている。
終ノ路開キシ時 狭間ニ瘴気満ツル
瘴気満ツル闇ハ 憂世ヲ常闇ヘト変ズ
常闇ニ於テ 人ノ魂魄ハ眩ク匂ヒ
在得ヌ物供ヲ呼ビ寄ス
常闇ハ祓ノ灯火ヲ以テ 照ス可シ
青キ炎ハ 常闇ヲ仄カニ照シ
瘴気ヲ鎮メ祓フ
紫魂ノ儀文書
屋敷の奥にある書庫らしき場所に収められていた本。「紫魂ノ墨」という墨について書かれている。
巫女ニ柊ヲ納メシ者ハ
生キ血ト死ニ血ノ 朱ト藍ヲ混ゼラセテ
紫魂ノ墨トシ 以テ柊ヲ刻ム可シ
紫魂ノ墨ニ拠リ 刻マレシ柊ハ
其ノ想ヒ 逢ハスニ同ジクシテ
其ノ柊ヲ巫女ヘト移シ 想ヒ流ル
柊 涸レシ後ノ紫魂ノ墨ハ
涯ノ流水ヲ以テ 流ス可シ
逆身剥ギ文書
屋敷の奥にある書物蔵に収められていた古文書。「逆身剥ギ」という儀式について書かれている。
想ヒ残シ 寝目ニ入レヌ 刺青ノ巫女ハ
刺青ヲ逆剥ギテ 涯二流ス可シ
逆剥ギシ刺青 鎮メ石ノ祠ニ祭リ
鎮メ唄ヲ唱歌シテ 柊ノ涸ルヲ祈ル可シ
寝目ニ入レヌ 刺青ノ巫女ハ
柊 背負フ二耐ヘラレズ
忌目ニ囚ハレ 狭間ニ落ツル
刺魂ノ儀文書
屋敷に封印されていた社に置かれていた古文書。「刺魂ノ儀」という儀式について書かれている。
彼ノ岸 此ノ岸 隔テシ想ヒハ
寝目ヲ通シテ涯二至リ
常夜海 揺リ満ツ
隔テシ想ヒ 柊トシテ 刺青ヲ以テ
巫女ヘト刻ミ 刺魂ノ儀ス可シ
柊刻ミシ 刺青ノ巫女ハ
其ノ柊ヲ己ガ寝目トシテ背負ヒ
常世海 鎮ム
更紗模様の手記 一
御簾の中に置かれていた手記*10。「破戒」というものが起きたことが書かれている。
柊を納めに来た男の一人を、鎮女が久世ノ宮に導き入れたが為、巫女に刺眼が刻まれ、棘獄が開いてしまつた。
矢張り男を久世ノ宮へ入れてはならなかつた。何人たりとも、巫女の無目に刻んではならなかつたのだ。
破戒により柊を受けし私も、もう外に出ることは叶はぬ。
流れ出した狭間が久世ノ宮より外へ広がる前に、久世ノ宮を狭間に閉じてしまわねばならぬ。
寺社番匠を招聘し、久世ノ宮を封印せねばならぬ。多くの忌ノ柱が要る。
更紗模様の手記 二
御簾の中に置かれていた手記。屋敷に「狭間」が広がっていく様子が書かれている。
巫女に刻まれし柊は余程深いものだつたのだらうか。狭間の広がりは収まらず、眠ノ宮を以てしても抑え切れぬかも知れぬ。
我が身も半ば狭間へと取り込まれ、忌目に囚はれ、破戒から幾日を経てゐるのかも明瞭とせぬ。
残りしは幼き鎮女達のみとなる、哀れとは思ふが、氷雨に最期の咎打ちを申し付く。
決して狭間を外に広げてはならぬ。
今思へば、あの男の耳には響石があつたやうに思ふ。*14
あの者は鏡華の忌子だつたのかも知れぬ。下界より立ち戻つたのだらうか。
だとすれば、雨音の親兄と言うことになる。哀れなことだ。
守谷ノ文書 一
全身に刺青が刻まれた、宮大工らしき霊が残した書物。屋敷の建立について書かれているようだ。
各地より上無し寺社番匠を選り集め、大空洞を以て久世の宮を囲み、一条の光も漏れ入らぬ様、闇の裡(うち)へ封印すべし。
然る後、大空洞の御前の御神木を芯柱として、狭間ノ宮を建立し、闇を祓ひ、狭間が下界へと漏れ出ぬ様、忌ノ柱を立て並ぶべし。
守谷ノ文書 二
刺青が刻まれた大工が残した書物。「守谷」という番匠(大工)の覚悟について書かれているようだ。
久世ノ宮及び終ノ路修繕、建立に際し、守谷家の番匠はその長を残して再び戻れぬ事覚悟すべし。
技の秀でし一人を除き、総ての番匠は密を守る為、その身を忌の柱として御宮の裡へ埋め、その務めを全ふすべし。
残りし守谷の番匠は、次代へと教へを次ぐ木工頭と成るべし。
守谷ノ文書 三
刺青が刻まれた大工が残した書物。「破戒」が起きた時の心得のようなものが書かれている。
「破戒」起きし後、棘獄より迷ひ出し巫女は、夢現の如く屋敷を彷徨ふ。
巫女が通りし路は総て狭間へと呑込まれ、闇へと没す。
「狭間ノ宮」はその巫女を外へと出さず、永久に彷徨はせ、狭間が外へ漏れ出ぬ様隠す宮也。
守谷ノ文書 四
刺青が刻まれた大工が残した書物。巫女を鎮めるまでの手順のようなものが書かれている。
「狭間ノ宮」にて巫女を彷徨はせ、その四方にて咎を穿ちて篭り、巫女の鎮まるを祈るべし。
巫女が鎮まらぬ時は更なる「眠ノ宮」を築き、巫女の眠りを祈るべし。
眠ノ宮はツ巫女が外へ出ぬ様狭間を閉じ、寝目の中へと封ず。
狭間の外へ出ぬ様、久遠に咎を穿ち、祈り鎮めよ。
赤い表紙の日記 一
人形が打ち付けられた部屋の祭壇に置いてあった日記*15。「雨音」に「咎を穿つ」と書かれている。
雨音は久世ノ宮におのこを導き入れた。
おのこは巫女様を寝目から起こしてしまふ。
久世の掟守らなければならぬ。
咎を穿つて仕舞わなければならぬ。
逃がしてはならぬ。
赤い表紙の日記 二
壁に囲まれた部屋で、最期に残った巫女姿の少女が残した日記。少し狂気じみた内容が書かれている。
当主様もはざまへお隠れになつた。
雨音はならくの底で咎を穿つた。
時雨も、水面もみんなうちつけた。
お屋敷には、もうわたしだけ。
わたしが、最期に選ばれたから。
誰もゐなくなつたお屋敷は広くて、暗くて、寝目のやうで、きもちいい。
わたしは、ここで眠るの。
ずっと、ずっと。
青い表紙の日記 一
人形が打ち付けられた祭壇に残されていた日記*16。「かなめ」と「れいか」について書かれている。
母さまが、わたしにお兄ちゃんがゐると教えてくれた。
かなめお兄ちゃんは、今はお外のお家にゐる。
久世のおうちでは、おのこは流されてしまうから、お外へ出されたのだそうだ。
これはないしょのことだと、なんどもおつしゃられた。
お兄ちゃんは、母さまと同じ耳かざりをもつてゐる。
母さまが、父さまからもらつた、きれいな耳かざり。
何処にゐても、母さまのお声が、お耳にとどくやうに。
わたしの声も、お耳にとどくだらうか。
ひとめ、お逢ひしたい。
れいかお姉ちゃんが巫女さまになられた。わたしは巫女さまのお世話を云ひ使つた。
巫女さまは、お外の話を聞かせてくれる。
話してゐると、ひいらぎも少しやすらぐとおつしゃつてゐた。お役に立ててうれしい。
巫女さまのお耳には、母さまのと同じ耳かざりがついてゐる。
仲のよかつたお方からもらつたものなのだそうだ。*17どこにゐても、声が聞こえるやうに。
そのお方は、かなめお兄ちゃんかもしれない。巫女さまに、その人のお話をたくさんうかがつた。
巫女さまは、少しお寂しそうだつた。
青い表紙の日記 二
吊られた牢のある部屋に置かれていた日記。「兄」と「巫女」を逢わせると書かれている。
ひいらぎを納めに来られた人の中に、かなめお兄ちゃんが忍んで来られた。
巫女さまと、ひとめ逢ひたいと。
本当は掟で禁じられてゐるのだけれど、巫女さまはもうすぐ戒を打たれて出られなくなつてしまう。
お二人を、ひとめだけ、逢はせてあげたい。
かなめお兄ちゃんは、お社の奥へ行つてしまつた。巫女さまのところに。
お社にはおのこは入つてはならない。
きつと、当主さまはお怒りになるだらう。
青い表紙の日記 三
巫女姿の少女が隠れていた場所に残されていた日記。兄が帰ってこないと書かれている。
お兄ちゃんが帰つてこない。
もうすぐ、おはらいのろうそくも無くなつてしまふ。
巫女さまを見るだけだと、ひとめ、逢ふだけとおつしゃつたのに。
帰つてこない。
当主さまはきつとお怒りになられてゐる。
お社に、おのこを入れてしまつた。
きつと、お許しいただけないだらう。
帰つてこない。
帰つてこない。
もつと、お話したかつた。
ずつといつしょにゐてほしかつた。
かなめお兄ちゃんも、れいかお姉ちゃんも
いつしょに。
碧の表紙の日記
人形が打ち付けられた部屋の祭壇に置かれていた日記*18。「雨音」に謝るような内容が書かれている。
雨音ちゃんが、おのこをお社に引き入れてしまつた。
当主様は大変お怒りになられてゐる。巫女様が寝目よりさまされてしまふと、戒が破れ、狭間がひろがつてしまふ。
鎮女はそのお役目を忘れてはならぬと、当主様があれほどお教えされてゐたのに。
当主様の命により、雨音ちゃんに咎を打ち、お兄さんを流してしまふことになつた。
鎮女のお役目のため。久世ノ御宮のお役目のため。そうするしかない。
雨音ちゃん、ごめんなさい。
灰色の表紙の日記
人形が打ち付けられた部屋の祭壇に置かれていた日記*19。巫女姿の少女のものだと思われる。
うちつけられるのは、いたいのかな。
すこしずつ、すこしずつ杭をうがつのと、いちどにつよくうがつのでは、どちらがいたいのかな
ぜんぶうちつけたら、しんでしまふのかな。しんでしまつても、いいのかな。
はやく、ほんとうの巫女さまをうがちたい。
紫の表紙の日記 一
髪の毛が打ち付けてある部屋に落ちていた日記*20。帰ってこない想い人の話が書かれている。
あれから幾日経つたのだらう。
何ヶ月だらうか。何年だらうか。
何人ものマレビトが迎えられた。
でも、あの人とは違ふ。
あの人が美しいと云ふてくれた、この髪をどれだけ集めても、この想ひは、あの人には届かなゐのだらうか。
この髪を梳ひて、あの人の帰りを待たう。
あの人が、あの写真機を持つて帰つてきた時、また、写してもらえるやうに。
紫の表紙の日記 二
髪の毛が打ち付けてある部屋に落ちていた日記。子供を逃がしたと書かれている。
あの人の忘れ形見は、忌子だつた。
あの人に似た、美しい顔立ちをした。
この家にゐては、この子は四つになると流されてしまふ。その前に、下ノ村へ逃がさなければ。
あの人がくれた耳飾りを持たせれば、
きっといつか、帰つてこられる。
わたしの声も聞こえよう。
あの人とも、また逢えるかもしれない。
あの人がこの耳飾りを見つけてくれれば。
この子を、あの人と私の間を繋ぐやうに「かなめ」と名付けやう。
この子はきつと帰つてくる。あの人と一緒に。
紫の表紙の日記 三
髪を梳かす女の音量が残した日記。「秋人」という人への想いが綴られている。
秋人様は帰つてこない。
みんな、私を置いて屋敷から出て行つてしまふ。
いつも、私だけが残される。
ここで、髪を梳きて、待ち焦がれて。
どんなに髪を梳かしても、どんなに想ひを集めても、あの人は帰つてこない。
あの耳飾りも、あの子も、あの人へ想ひを伝えてはくれぬのだらうか。
紫の表紙の日記 四
中庭の屋根から入った、狭い座敷に残されていた日記。髪を梳かしていた女のものだろうか。
破戒のためお屋敷は閉じられ、さりとて外に出ることもかなはず、このまま、此処で朽ちて行くことになるのでしょう。
あの人の顔も、もうおぼろげにしか思ひ出せなくなつてしまつた。
あの人の残した写真も、残した最後の耳飾りも、全て前のお屋敷に置ひてきてしまつた。全てが朦朧として、まるで夢のやうに想ふ。
せめて、この髪だけでも、あの人に見てもらいたかつた。
咎打チ文書写シ
御簾のある部屋の2階の書庫に収められていた古書。「咎打ち」という儀式について書かれている。
刺青ノ巫女に刻まれし柊は、
寝目となつて巫女の心を蟲食む。
柊、即ち憂世の想ひを、紫魂で染めた
人形として打ち付けて祀り、
鎮メ唄を唄ひて巫女の安神を祈る可し。
此を咎打ちと云ひて鎮女の役儀とす。
禁忌ノ文書写シ
御簾のある部屋の2階の書庫に収められていた古書。儀式における禁忌について書かれているようだ。
刺青ノ巫女は戒ノ儀に於て、
憂世への想ひを残してはならぬ。
其の為、久世ノ宮へ立ち入る者は
尽く己が面を隠し、想ひを与へずして
儀式を行ふ可し。
取分け、柊刻みし巫女の心を乱さぬやう、
顔を隠さずして、久世ノ宮への
男方の立入るを禁ず。
刻ミ女文書写シ
御簾のある部屋の2階の書庫に収められていた古書。「刻ミ女」という役割について書かれている。
刺青を刻む刻ミ女は
巫女の柊を解すべく刺青を刻み、
巫女の寝目を解すべく目を冥くす。
紫魂ノ儀に於ては目を虚とし、
醒めながらにして寝目を見つつ
隔てし想ひの朱と藍を取り上げる可し。
刺魂ノ儀に於ては、手に棘刺し柊を染め
以て刺青ノ巫女へと刺し写す可し。
柊染まりしその手は落として流す可し。
民俗学者の手記 一
映写機のある部屋の本棚に置いてあった古書。屋敷について調べたことが書かれている。
蒐集を続けるうち、眠り巫女の発症であろう神社の存在を知るに至つた。
その神社は、奥深い山にひつそりと建つ小さなものである。まさに、あの絵図の通りであつた。
平素は参拝者は居らず、近くにある小さな集落にて話を聞くに「柊を納める」神社であるらしい。
当主らしき女に話を聞いたところ、雪解けまで客人として滞在を許された。
ここでは山にある聖地を守る儀式を行つて居り、その儀式には男が禁忌である為、数年に一度客人を招き入れて血を守るのだそうである。その客人はニイナエと呼ばれるそうであるが、世に云ふマレビトと同じ風習であると思はれる。
冬、雪の降る中、やつてくる参拝者は皆顔を隠し、台車で大きな袋を引いてゐる。
その姿は、どこか葬列のやうに見える。
彼らの為に行はれる儀式が「眠り巫女」の唄に繋がる儀式なのだらうか。
民俗学者の手記 二
映写機のある部屋の本棚に置いてあった古書。屋敷について調べたことが書かれている。
境内のあらゆることは「鎮女」と呼ばれる巫女が取り仕切つてゐる。
男である私は屋敷内では一部の部屋しか立ち入りを許されない。昼の間は自室として充てがわれた部屋に閉じ込められ、夜は鏡華と云ふ女性の部屋に招かれることとなる。
外界との連絡がほとんどない屋敷内に於ゐて客人は特別な存在であるらしく、鏡華は私の話を熱心に聞く。
彼女が爪弾く琴の音は、その柳髪と同じやうに繊細で美しい。
私が唄の蒐集をしてゐると云ふと、この地方に伝はる幾つかの俚謡を聞かせてくれた。
「眠り巫女」は矢張りこの神社に関る唄であり、儀式に際して唄はれる「鎮メ唄」と云ふ唄であるらしい。
鏡華の話では、鎮女達は屋敷に四人居り、周囲の村落から選ばれたおよそ五歳から九歳までの娘達が年季勤めをしてゐるのだそうだ。
彼女達も、「鎮メ唄」の儀式で重要な役目を持つそうであるが、その儀式の内容に就いては、鏡華も教えてはくれなかつた。
歌詞から察するに、巫女や文身に関る儀式であると思はれるが、余り深く詮索するのは礼に失するだらう。
民俗学者の手記 三
座敷のある広間の2階にあった文書。屋敷に就いて調べた事が書かれている。
この神社に入り、半月が経とうとしてゐる。外の雪はまだ降り続ひてゐる。この雪が解けると、鏡華とも別れ、恐らく、もう戻れなゐのだらう。
男の居らぬ屋敷である。いざとならば逃げることはできやうが、叶ふことなら、鏡華を連れて行きたい。そう思う心が、私を此処に引きとめてゐる。
時折、近くの集落から参拝者らしき人々が来る。矢張り、全ての人々が顔を隠し、社の奥に向かつて行く。
今日の参拝者は女性らしく、子供ほどの大きさの袋を抱え、泣いてゐるやうに見えた。
そして、あの「鎮メ唄」が聞こえてくる。「儀式」とは、葬送、山送りのやうなものなのだらうか。
紅い表紙の日記
深紅の夢で見た屋敷の、座敷牢らしき部屋にあった日記。「氷室家」について書かれている。
雪が降つてゐる。静かな夜。
この窓から見続けた十年の四季の流れも、この雪で最期になるのでしょう。
この雪を見てゐると、何もかもが過ぎ去つたことのやう。
漸く、全ての未練を断ち切ることができました。
この身を縄へと宿し、門を封じましよう。
氷室 緤*21
「紅贄祭」について
澪がいた座敷牢の奥の本棚に残されていた手記。民俗学者が村や祭りについて調べたもののようだ。
この地方に伝はる「秘祭」は「紅贄祭」(あかにえさい)と呼ばれ、双子の巫女をもつて「黄泉の門」を封じる祭りであるらしい。
「紅贄祭」には「本祭」と呼ばれる定期的に行はれる祭と、その神事が失敗した時に行はれる「陰祭」(かげまつり)があると云ふ。
それらの神事が全て失敗し「黄泉の門」が溢れる災厄のことを「大償」(おおつぐない)と呼び、門から死者が溢れ、天を閉ざすと記されてゐる。
「双子巫女」について
澪がいた座敷牢の奥の本棚に残されていた手記。双子にまつわる儀式について記されている。
双子巫女
紅贄祭に於て、贄として捧げられる双子の巫女。
時として男の双子で行はれる場合もある。その場合は双子御子と記される。
この地方では、双子とは元々一人であつたものが、別れてうまれてきたと信じられてゐるやうだ。
紅贄祭とは、この地に伝はる伝承にある、
「二つに分かれた体が一つに合わさる時
その巫女は神の子としての力が生じる」
といふ件をもとにしたものらしく、
「姉が妹を××し、×へなげ入れる」
と記されてゐる。
××の部分は、恐らく文面に書き残すことを忌むやうな儀式なのであらう。
「贄」と云ふ文字がその内容を表してゐる。
其ノ他
螢が残したノート
螢の鞄に入っていたノート。子守唄の最後の一節について書かれている。
優雨の聞き取りによる「眠り巫女」の第三節について、歌詞を検討してみた。これも何かのヒントになるかもしれない。「刺青木を穿つ」以外の可能性として、以下に書き留める。
第三節の歌詞の内容は、それまでの「眠らせる」という意味の歌詞とは違い、巫女を「送り出す」唄のように思える。
優雨の言っていた「弔いの唄」という表現は、確かにこの歌詞にしっくり来る。
あのあたりには古くから異界信仰があり、久世家がある山には、常夜海と呼ばれる聖域があると言われている。
ある地図には、あの屋敷の奥に広大な海のような空間が描かれていた。
おそらく、常世を表しているのだろう。
そこへ、巫女を「わたす」のだろうか。
印が付けられた地図
古い和紙に書き残された地図。この屋敷らしき地図に、五つの部屋が描かれている。
「狭間ノ宮」ヲ以テ破戒ヲ
鎮メ得ヌ時ハ、更ナル「眠ノ宮」ヲ
造リテ巫女ノ眠リヲ祈ルベシ
外界ヘ狭間ノ広ガラヌ様、
「狭間ノ宮」ト「眠ノ宮」ヲ繋ギシ
場所ニ最後ノ咎ヲ穿ツベシ。
焦げたパスポート
夢の屋敷にいた女性の物と思われるパスポート。「TAKIGAWA YOSHINO」とかかれている。
性/Surname
TAKIGAWA
名/Given name
YOSHINO
国籍/Nationality
JAPAN
本籍/Registered Domicile
SHIZUOKA
所持人自署/Signature of bearer
瀧川 吉…
瀧川吉乃の日記
病院でつけていたという瀧川吉乃の日記。恋人や家族の死、屋敷の夢について書かれている。
8月10日 晴れ
日記を書いて人に読んでもらうことは、精神的にも良いのだそうだ。
これで、あの嫌な夢も見なくなるといい。
一人は寂しい。
誰かにこれを読んでもらえるのなら、それでも、その人と繋がつていることになるのだろうか。
8月11日 くもり
家族も、直哉さんも死んでしまった。
でも、その事実よりも、今こうして一人でいる、ということのほうが、怖い。
あの事故の時より、その後、一人だけ生き残ってしまって、ずっと待っていた時のほうが怖かった。
自分が一人だけ残されてしまったようで、真っ暗で、熱帯夜だったのに、寒くて。
8月13日 くもり
嫌な夢を見る。雪の降る古い廃屋。
一人で迷っているけど、その奥には多分、みんながいる。逢える。そんな気がした。
そこへ行けば逢える。呼んでいる。
そこへ行ってしまうと、もう、戻れないのかもしれない。
でも、あの人がそれを望んでいるのなら。
8月18日 くもり
少しずつ、奥へ進む。寒い。暗くなって。唄が聞こえる。
奥に、直哉さんが。お母さんもお父さんも
みんな、私を置いて奥に、奥に。
私だけ置いていかれた。私だけ残ってしまったから。
8月27日 雨
痛い。この痛みは、夢なんだろうか。
刺青が広がる。先生は、そんな物は見えないと言う。最近、海外ではこういう事故後の精神的な障害を「PTSD」と呼んでいるのだそうだ。
でも、私には見える。
月 日 雨
数日寝て、少しだけ起きる。寝ているのか、起きているのか、段々分からなくなって。
先生は興味深げに私から話を聞く。
親身になってくれているのかもしれない。
でも、あの夢も、痛みも私だけのもの。
いたい。広がっていく。
月 日 雨 わからない
私が悪いのだろうか。
私だけが生き残ったから。
でも私だって、好きで生き残ったんじゃない。
月 日
いたい。いたい。いたい。
どうしたらいいの。どうすれば、許して
あの女が追ってくる。目が覚めても、
見える。
月 日
これ以上触れられたら、もうだめ。
もう みたくない
這う女の都市伝説
ある都市伝説についてまとめられたノート。四つん這いの女の写真から、深紅が調べてきたもの。
失踪者、神隠しなどにまつわる都市伝説の一つに「四つん這いの女」というものがあります。
『床下や天井裏、押し入れなど、狭くて暗い場所に潜んでいる女性がいて、毎夜這い出だして来ては、怨み言を言う。』
というものです。
このタイプの都市伝説の多くは、元になった(小説などの)フィクションや(事件などの)ノンフィクションが存在し、それが広がって行く過程で、人の持つ恐怖に対するイメージなどが加味されてまさに「伝説化」したものです。
例えば、この「四つん這いの女」という話は、十数年前に起った災害時に実際あった以下のような話を元にしていると言われています。
『災害から1ヶ月後に、災害現場とは十数キロ離れた下水溝から女性の遺体が発見され、調べると数時間前まで生きていた形跡が見られた。』
以下は尾ひれとして「伝説化」が始まった後の話だと思われますが、女性が発見された場所と、災害現場の経路上に住んでいた何人かは、夜中に何かを叩く音を聞いていた、という話もあります。
また、この話にはもう一つ、別の伝わり方をしている例もあります。
大筋は同じく、床下や天井裏に潜む女性が、毎夜助けを求めてくるというものですが、こちらの場合は、声のする天井裏や床下を覗き込むと、そのまま襲われる、というオチがつきます。
瀧川吉乃に関する調査
深紅が「瀧川吉乃」について調査したノート。彼女らしく、細かにまとめられている。
写真の女性について
名前 瀧川吉乃さん(26)
8月に起きた航空機墜落事故の、唯一の生存者。
当時取材した、編集部の小澤さんによる話です。
瀧川吉乃さんは、事故機の墜落時、地上近くで機体から投げ出され、墜落時の火災の影響を殆ど受けずに済みました。
また、投げ出された場所にあった樹木などがクッションになったことも重なり、奇跡的に助かったのではないかと報告されています。
救出時、彼女の外傷は軽度の火傷、打撲、擦り傷程度で命に別状は無いと診断されたものの、発見されるまで4日を要したこともあり、極度の脱水、衰弱と心労と、精神的にも傷を負った状態だったようです。
その4日間、彼女は他の犠牲者、それも肉親や恋人の遺体に囲まれてすごしていたということです。
以下は入院先の病院の人から聞くことができた話です。
入院後、彼女は一人になることと眠ることを極度に恐れていたそうです。
恐ろしい夢を見るのだそうで、眠らないように自傷行為まで起こすようになったと。
しかしそのうち、一日のうちに眠っている時間が長くなっていき、大半を眠って過ごすようになったそうです。
最初のうちは、精神的な外傷による非気質性睡眠障害と診断されていたそうですが、次第に症状が重くなり、3日間以上も目が覚めなかったり、起きた後に「体中に痣が浮かび上がる」「痛い」というような幻覚症状を訴えたりしたそうです。
幻覚症状が激しくなる一方、覚醒時の彼女は次第に外からの刺激への反応が鈍くなり、時々、ボソボソとうわ言のようなことを言っていたり、子守唄を唄っていたという話も聞けました。
ここ数日はずっと目が覚めず、後は怜さんが見た通りです。
これも、病院での噂なんですが、医療関係者の間には都市伝説のようなものが伝わっていて、瀧川さんのような「消えてしまった」と言われる患者について、昔から噂が絶えないのだそうです。
廃屋に関する調査
取材に行った廃屋を深紅が調べてきてくれたもの。あの屋敷にまつわる噂や言い伝えが書いてある。
先日取材した廃屋について
先日取材した廃屋について、編集部の方から聞いた話を以下にまとめます。
取材前には調べる時間が取れなかったので、写真の選定資料として目を通して下さい。
一、屋敷の歴史
あの屋敷周辺は、明治の頃までは幾つかの集落があった場所だと言われていますが、現在はあの廃屋のみしか残っておらず、地主の方にもあの屋敷が何時、何の為に作られたものか、分からないそうです。
今は入り口付近しか残っていませんが、本来は奥行きの深い、奇怪な形をした巨大な屋敷だったということです。
古い地図には神社があったと書かれている場合があるようですが、今はその跡も見られず、詳細はよくわからないそうです。
ただ、裏の山には昔から神話めいた話が伝わっていて、常世(あの世)と繋がっている場所があると言われているそうです。
二、幽霊屋敷の噂
その神話めいた話からなのか、昔からあの廃屋は幽霊屋敷と言われていて、その噂を目的に訪れる人も多いとのことです。
その噂とは「あの屋敷では死者と逢える」と言われているもので、また「逢った死者にあの世に誘われる」という話もあります。
噂の発端として、あの場所にあった神社が降霊を行っていたからだ、という話もあるようです。それもまた噂に過ぎませんが。
いずれも、「あの世と繋がっている」山にまつわる話が元になっているのだと思います。
螢からの手紙 一
「天倉螢」氏から優雨宛てに届いた手紙。ある「都市伝説」を調べていると書かれている。
前略
しばらく連絡を取らずにすまなかった。
怜さんとは上手くいっているか?
こちらは、相変わらず例の都市伝説について調査を進めている。
やはり、この都市伝説にまつわる奇病の話は、以前話した姪*23の症状と符合するところが多い。
話の大部分はただの流言蜚語の類だと思うが、精神医学の研究論文が残っているという話も聞いたことがある。
もし、君が持っているようなら、見せて欲しい。何かの手掛かりになるかもしれない。
今かかえているいくつかの仕事を中断して、この都市伝説の調査に専念することにするよ。できれば、協力して欲しい。
そちらに送ったカメラについてだが、文献を調べたところ「射影機」と呼ばれる珍しいものらしい。
見つかった場所から考えると、あのカメラも失踪事件や例の都市伝説と関係があるのかもしれない。
何か情報があったら知らせて欲しい。
草々
天倉 螢
螢からの手紙 二
優雨の部屋に残されていた「天倉螢」氏からの手紙。「射影機」を優に送った時のものと思われる。
前略
「眠りの家」の都市伝説に関する調査をしていたところ、地図にも残っていない、ある廃村に辿りついた。
このカメラは、その村の近くにあった巨大な廃屋*24で見つけた物だ。
病気がちな姉さんから預かった、姪の澪(たしか、繭の失踪の時に君にも迷惑を掛けたので記憶していると思う)が、そのカメラを見て酷くおびえるんだ。
語りたがらないあの事件を思い起こさせる何かがあるのだろうか。
とりあえず、君の方で預かっておいて欲しい。たしか、古道具に詳しかったよな。調べておいてもらえると、助かる。
しばらくは、連絡は取れなくなると思う。
こちらから連絡を入れるので、何かわかったのなら、その時に知らせて欲しい。
草々
天倉 螢
螢からの手紙 三
「天倉螢」氏からの手紙。都市伝説の話と「真冬」という深紅の兄らしき人物について書かれている。
前略
例の都市伝説について、新たに見つかった証言テープを送る。
優雨が持っていた方が、しっかり保管しておいてくれるだろう。
他にも数本見つけてはいるが、当時の蓄音機からダビングされた相当に古い物の為、テープの痛みが激しい。今、修復を頼んでいる。届き次第そちらに送るようにするよ。
最近、伝承や昔話、民俗宗教のような、民俗学的なことばかり調べている。
優雨と真冬は、そういうのが専門だったよな。
興味深い世界ではあるが、あまり深入りはしたくないと思うよ。
真冬の妹さん(深紅さんだったか)は元気にしているだろうか。
各方面に手を尽くしてはいるが、高峰準星氏を探して姿を消した彼の行方についても、依然分かっていない。彼も「神隠し」だとでもいうのだろうか。*25
そちらも何かあったら、知らせて欲しい。
澪の症状が思わしく無いので、病院に預けることにした。
彼女はもう、2日に一度、それも2、3時間くらいしか目が覚めなくなってきている。
調査を急がなければならない。
草々
天倉 螢
螢からの手紙 四
「天倉螢」氏からの手紙。彼自身が「眠りの家」の夢を見るようになったと書かれている。
前略
以前送った3本のテープは聞いてもらえただろうか。以下の話は、そのテープを聞いてから読んで欲しい。
信じてもらえないかもしれないが、俺自身、あの「眠りの家」の夢を見るようになった。
最初は、あの屋敷の夢のことばかりを考えているから夢を見たのだろうと思ったが、あのテープや澪の言っていたことと、同じような症状が表れている。
夢の中、俺は、雪の降る大きな屋敷にいる。
見覚えはあまり無いが、あの時「射影機」を拾った家に似ていたような気がする。
屋敷中に、恐ろしい気配がする。ほぼ、テープなどの証言どおりだ。
ただ一つ違うのは、俺が屋敷で追っているのは「澪」で、澪はまだ「死んではいない」ということだ。
「眠りの家」の都市伝説が本当のことだったとしても、澪を夢から醒ますことができれば、助けられるのかもしれない。
たとえ、理解しがたいことであっても、俺は核心に近づいているような気がする。
草々
天倉 螢
螢からの手紙 五
優雨の机に入っていた、少し前の手紙。カセットテープを送った時のものらしい。
前略
「眠りの家」の都市伝説について、ある病院関係者から、江戸末期から明治初期の精神病学(現在の精神医学)医が、患者の症例を記録したというテープを手に入れた。
元々の音源は当時の蓄音機で録音されたものなのでノイズは多いが、なかなか面白い内容が収録されている。
文化人類学とは少し違うが、優雨も興味がある内容だと思う。
付き合わせて悪いが、聞いてみて、例の「眠りの家」と似た伝承や失踪事件との関りについて、調べてみて欲しい。
草々
天倉 螢
螢からの手紙 六
「天倉螢」氏から届いた手紙。症状が進む自らの「夢」について書かれている。
前略
頼んでいたカセットテープの修復が終ったので、送る。
手持ちのデッキが壊れてしまったので聞くことはできないが、テープの状態がかなり悪いらしく、修復されてはいるものの聞き取りは難しいかもしれない。
先日来見ている夢についてだが、屋敷の奥で澪を見つけた。澪はどうやら失踪した姉の繭を追っているようだ。やはり、気に病んでいたのだろう。
目覚めた時の痛み、刺青は、話どおり少しずつ広がって来ている。急がなければ、都市伝説どおりなら、このままだと俺は失踪者になるんだろう。
このあたりでの調査もそろそろ限界かもしれない。山を降りたら、電話を入れる。
草々
天倉 螢
都市伝説について
優雨の机に残されていた、「神隠し」や「都市伝説」に関するノート。螢さんに依頼されたものだろう。*27
「消えた村」と類される都市伝説の多くは、「一人の村人が多くの村人を惨殺したため、村が滅ぶ」という、実在した事件をその基本構造にし、各地に伝わる事件や伝説、伝承等を集合させたものである場合が多い。
「山奥の隔絶された村」という舞台設定や、夜這い、儀式という「過去の風習」がその引き金になるというのも、そのモチーフとされる事件から引用された要素である。
この都市伝説が好まれる理由は「都市部から見た地方観、近代から見た前世代的なものへの偏見」をその根底に有しているからだと考えられる。
都会、現代に住む者にとって「村」は未開地であり、そこに住む者たちは「異人」である。
彼等への嘲り、逆を言えば恐れが都市伝説という形で表出するのではないだろうか。
実際の事件の引用という側面だけではなく、その為にも伝説の舞台は「山奥の隔絶された村」でなくてはならず、「過去の風習」という魅力的な要素がその事件の引き金となるのである。
この事例に関しては、繭さんが失踪した「水上ダム」近辺にも伝えられている。
「地図から消えた村」
水上の山中には、その昔大虐殺があり「地図から消えた」と言われる村があった。
昔、ある祭りの夜に大虐殺が行われ、村は地図から消えた。
その村で生き残ったのは、ただ一人の女だけである。
村があったと言われる森を歩いていると小さな地蔵があり、それを辿ると村の入り口の小さな鳥居に辿り着く。
鳥居をくぐると、もう戻れない。
その村は二度と明けない虐殺の夜が続き、夜の村に恐ろしい女の笑い声が響いている。
次の例は「猟奇殺人が行われた屋敷で、同じ惨劇が繰り返される」というものである。
規模こそ小さくなっているが、概ねは村の場合と同じく実際にあった事件を元に要素が構成されている。
以下は、その事例の一つ。これは、真冬の失踪に関る事例である。
「引き裂きの家」
氷室地方の山中には、昔惨殺事件が起きたという屋敷がそのまま残されている。
周囲の森では昔から神隠しが多く、その行方不明者の多くはその屋敷に迷い込み、事件当時と同じと言われる、両手、両足、頭が切断された、胴体のみの死体で発見されるのだという。
もう一つは、今回調べている「眠りの家」の都市伝説に関係がありそうな事例である。
「眠りの家」の都市伝説とは昭和40年代を境に雑誌などで話題に上っているが、その特徴とよく似た事件は、さらに古い新聞等に散見できる。
この新聞は大正時期のもので、「眠りの家」の都市伝説が話題に上り始めた時期とは全く関係は無いが「神隠し」に至る経緯や、その後に残された状態に「眠りの家」の都市伝説と共通する部分が見られる。
まだ調査中ではあるが、これらの事例は古くは明治まで遡れ、幾つかの民俗学関連の本などにも、「眠りの家」の元になったと思われる伝承が見受けられる。
都市伝説「眠りの家」
優雨の本棚にあった古い民俗学の本。「眠りの家」の伝承について書かれている。
「眠りの家」の都市伝説
「眠りの家」とは、古くは主に精神医学関係者の間で囁かれていた都市伝説であり、入院している患者が突然消えてしまう、というものである。
それには何段階かのステップがあり、症状のように進展していく。
一、同じ夢を見る
患者(後に失踪する)はまず、毎日同じ夢を見る。それは、主に死んだ恋人や家族の夢である。
二、屋敷の夢を見る
患者は次に、巨大な屋敷に迷い込む夢を見るようになる。そこは雪が降る巨大な日本家屋で、何度も増築したような複雑な構造をしている。
そして、その奥に、自分に近しい死者の姿を発見する。
三、屋敷の奥へ進む
患者は死者の後を追って屋敷の奥へと進む。その道すがら見る光景や現象も、多くの患者に共通するものである。
例えば「子守唄を聞く」「顔を隠した葬列を見る」「刺青を入れた女に追われる」等。
四、覚醒時の幻覚症状
次の段階へ進むと、患者は覚醒時に身体の異常を訴えるようになる。その症状も共通のもので、目が覚めると全身に激痛が走り、体中に青い痣、蛇などの刺青の模様が浮かび上がり、広がっていく、と言う。
五、覚醒時間の減少
更に段階を進むと、患者は次第に外部からの刺激に反応が弱くなる。そして徐々に眠っている時間が長くなっていく。
これは精神医学の見地から見ると「痛みに対する防御行動」とされるもので、本当に痛みがあるとすれば、正常な反応でもある。
六、失踪、消失
そして、一の段階からおよそ一、二ヶ月で患者は「失踪」する。しかし「失踪」は表向きの発表であり、本当は「黒い煤のような跡を残して消える」と言われている。
以上が本来の「眠りの家」の都市伝説であるが、一般に広まっている「眠りの家」の都市伝説はもう少し物語化されており、以下のような要素が加わっている。
一、死者に対する強い想いが、最初の悪夢を呼び寄せる。
二、夢で死者を見たとき、後を追うと二度と戻れなくなる。*28
三、眠りに落ちた人が恋人や友人の夢を見たら、その人を眠りに誘ってしまう。眠りの家の悪夢は伝染し広がっていく。*29
四、眠りの家の奥には死者の世界があり、そこまで辿りつくと、死者に逢うことができる。
「眠り巫女」について
優雨の机に残されていたノート。子守唄「眠り巫女」に関して書かれている。
この唄は北東北に伝わる「眠り巫女」という子守唄の原曲と思われる歌で、地元の大学に残されていた蓄音機から見つかり、編集部を通じて送ってもらったものだ。
聞いてみたが、第一節、第二説とも、現在伝わっている「眠り巫女」とは少し違った内容になっているが、これは伝わった地方
時代による言葉の違いだと思われる。
他にも、「第三節」があるという大きな違いがある。
詳しくは調べてみないと解らないが、第二節までと第三節では、少し唄の印象が違うように思う。
以下、聞き取りではあるが歌詞を聞いた。
「眠り巫女 第三節」
ゆきなさよ はたて
ゆきなさよ はたて
ゆきぶね ゆらして はたて
このきし ひらいて はたて
ろうろう みわたり かのきしに
しせい わたして なくが てあげ
第一節、第二節は、「おどし唄」らしく怖い言葉が所々に出てくるが、第三節は少し寂しげで、かなしい調子の唄になっている。
特に歌い終りの部分は子守唄というより弔いの唄のようにすら聞こえる気がする。
紅い手帳の断片 一
囲炉裏の近くに残されていた手帳の断片。「美也子」という人が「真澄」を探しているようだ。*30
真澄さん、美也子です。
あなたを探しに来ました。
いっしょに帰りましょう。
二人でなら出られるかもしれない。
このメモを読んだら、大声を出して。
私、近くにいるから。
がんばって。
紅い手帳の断片 二
着物のある部屋の棚に残されていた手帳の切れ端。「真澄」という人に逢いたいと書かれている。
この村に入って、どれくらい経つのだろう。
夜はいつまでも明けない。
もう暗いのは嫌…おかしくなりそう。
外へ出たい。
真澄さんに逢いたい。
カセットテープ
眠りの家の症例 A
母を…見たんです…その夢…屋敷で…
奥に…古いお社があって…寒くて…雪が降ってる…
歌が聞こえて…
社にたくさんの人が入っていきます
葬式の列みたいな
お香の匂いがして…みんな顔を隠してて…
その中に母がいたんです
何度呼んでも…どんどん行ってしまって…
寸前で扉が閉まるんです
私だけ…残されるような…
それが、毎日…
…少しずつ奥へ入っていって…
どんどん奥に行って…戻れなくなる…
でも…その奥で…母に…逢えると…
眠りの家の症例 B
…はい…?
はい…あの夢です
あの家の夢…
ああ、名前は……です
同じ家です
静かで…雪が降っていて…
天井が破れて…
ああ、歌…ですか
どこかの…子守唄のような…
…子供がずっと人形を打ち付けて…
目が…覚めた時? いつも、痛くて…
ほら、見えませんか…わたしのここに……
いえ、本当です。だんだん広がって…
同ジ夢ヲ見ル人々 一
え…? 何度…言わせるんですか…
屋敷です…雪が降っていて…
…血です。たくさんの人が倒れてて
廊下にも、部屋にも
そう…白い服を着た…顔の無い男です
…血が…壁中に…
いつも必死に逃げて…何回も踏んで…
壁からたくさんの手が出ていて…
…でも、気がつくと
私の方が男の後を追いかけてる感じになって…
そうです。…あの……
…昨日、触られました…痛いくらい……
起きた時も、体が冷たくて
この刺青は…
同ジ夢ヲ見ル人々 二
ええ…もう…眠りたくない…
庭に大勢の人がいました
縄で吊して…埋めていました
…人です。白い布にくるまれた…
でも…………気がしたんです
その後で、大きな石をのせて…
大きな木に…串刺しの…
唄が…屋敷の奥から…子供が唄って…笑ってる…
最初?
最初は…妻…妻を見て…もう一度逢いたくて…
…今も眠いんです。すごく……
同ジ夢ヲ見ル人々 三
…聞こえてきます
なんて言ってるかわからないけど、聞こえて
同じ夢です…いえ、同じではありません
だんだん奥に行っている
呼んでいる。声が聞こえる
いえ、なんて言ってるかは…わかりません
呼んでるんです
………大きな屋敷
葬式をしているような。みんな顔を隠してて…
どんどん降りている…深いところです
…息ができない
何もしていない…あいつが自分で…いや…そんな…
助けて…私は悪くない…私のせいじゃ…
古いテープ 乙月
はい…かなめ…おとつき……かなめです
…雪の降る…大きな……
奥の古い社…
歌が聞こえて…
そこに、彼女が…れいか…がいるんです
いえ、もっと奥です
もっと…深い…暗い…水の…底のような
…いえ…夢の話です。でも、はっきりとした……
…私が拾われた村には、そんな場所があると
聞いたことがあります…
死んだ人に逢える…場所…ハタテとの…狭間…
そこに…痛みを納める…社が…
…そうです。久世。久世の宮です…
れいかは、あそこで…刺青…
痛みを…引き受け…最後には…
戻らなくては…あの屋敷…れいかと逢わなければ…
…逢って…わからない…でも…行かないと…彼女は…
乙月要やその周辺に関する考察
概要
乙月要に関するゲーム内テキストを時系列で並べると
- 久世鏡華と柏木秋人との間に誕生
- 鏡華によって響石の耳飾りを持たされ「下ノ村」に逃がされる(このことは夜舟も知っている)
- その村で零華と共に育つ
- 彼女を置いて都市部へ行くが、その際に耳飾りを彼女に託す
- 「眠りの家」に囚われ、麻生邦彦の元で久世の宮に関する伝承と零華が刺青ノ巫女になっていることなどを話す
- 麻生邦彦の元(都市部)から失踪する。その際に響石を置いていく。
- 雨音の手引きで久世ノ宮へ侵入。久世夜舟により殺害される。夜舟によれば要は響石を身に付けていたとのことだがムービーでは確認できず。
響石が多すぎる点について
- 確実に存在する響石
- 夢の中で螢が入手した鏡華のもの
- 現実で怜が入手したもの(麻生邦彦の元に残されたもの)
- 存在が確認できない響石
- 久世零華の響石(雨音の日記より)
- 乙月要の響石(夜舟の日記より)
怜が響石を入手する際に浮遊霊として零華が出現することから、麻生邦彦の元に残された響石は間違いなく要のものと考えて良いだろう。そして零華が出現するということは彼女自身も響石を持っていた可能性は高い。エンディングムービーにおいてはそれっぽいものが映っていると言えなくも無い。
一方で作中において響石は特別な鉱石として知られており唯一無二のものではないため、単に要がもう一対の響石の耳飾りを持っていた可能性もある。実際響石の耳飾りを見た雨音や夜舟も、それが要のものであると断言はしておらず、あくまでも可能性があるとだけ書いている。それを踏まえれば上述の確認できない響石については「もう一対の方だった」ということで解決できる。もしくはシンプルにスタッフのやらかし。
要が「眠りの家」に囚われている点について
作中では破戒の後に「眠りの家」が都市伝説化しているようなプロットだが実際には要が「眠りの家」に囚われている。「眠りの家」の性質として伝染するというものがあるので、零華の見た零華自身の夢が要に伝染したと考えるのが妥当だろうか(この点については麻生邦彦も可能性として言及している)
*2:「文身」の脱字?
*5:夢と現実でそれぞれ一冊ずつ存在する。内容は同じ。
*6:現実の文書の説明
*7:雨音
*8:夢の文書の説明
*9:乙月要
*10:久世家当主の久世夜舟によるもの
*11:乙月要
*12:零シリーズにおいては生贄のこと。子を成す為に招き入れた客人(まれびと)を生かして帰さなかったことから。
*13:『唄ト伝説』など作中に登場する民俗学の本の多くを執筆した学者、柏木秋人。客人として久世ノ宮に招かれ、久世当主の娘である鏡華との間に乙月要をもうけた後に殺害される。
*14:鏡華が要に持たせた響石は一つであり、麻生邦彦の元にも響石が残されていたのでこの点だけ大きな矛盾が生じる。
*16:乙月要の異父妹、雨音によるもの
*17:この時点で乙月要の耳飾りが三つ存在してしまう。仮に麻生邦彦のところにいた乙月要が同姓同名の別人であったとしても、要が久世ノ宮に侵入した時点で耳飾りをつけていたことを久世夜舟が言及していることから、やはり矛盾する。
*18:時雨によるもの
*19:最年少の水面によるもの
*20:久世家当主の娘、鏡華によるもの
*21:この内容から夢に出てくる氷室邸は初代とは時系列が異なり、先代の縄ノ巫女であることが分かる。
*22:原文は縦書き
*23:前作の主人公、天倉澪。
*24:オープニングで黒澤怜らが取材していた廃屋のこと。ニアミスであった。
*25:真冬は初代のエンディングで死亡したが、深紅は対外的に「兄は行方不明」と説明しているため螢も優雨も消息を追っている状況。
*26:瀧川吉乃によるもの
*27:初代、紅の蝶、刺青ノ聲ひいては零シリーズを総括したような内容となっている。
*28:深紅はこれに該当する。
*29:螢はこれにより澪に引き込まれる形で「眠りの家」の夢を見ている。
*30:一、二ともに原作の紅い蝶とは内容が微妙に異なる。